『Bone by Bone』Carol O'Connell、2008年。
舞台は「松葉杖をついた犬でも楽々車を追い抜ける眠ったような」ど田舎の町、コヴェントリー。そこに何年かぶりかで帰ってきたオーレンのもとに、行方不明だった弟ジョシュの骨がひとつずつ届けられます……。
そんなド田舎に、なぜか保身や成功を夢見る人たちが集まって、ピンからキリまで権謀術数を競い合います。地元の保安官は名探偵ものの引き立て役にも出て来ないくらいの駄目警官。副保安官はさらに駄目。州から派遣された捜査官も、なかば左遷されたも同然の人で、捜査や真相解明よりも企み自体が大好きなおばさんです(解説によると「コロンボ」だそうです。なある)。「名」弁護士も田舎に引っ込んだままやることがいちいちセコイ。元作家のライターは、事件をネタに再起を夢見ていますが、実作よりもむしろ成功したあとの妄想の方が盛んな様子。
主人公オーレンは元軍警察の優秀な捜査官でしたが、プロの捜査小説というよりはむしろご近所探偵もののような内容です。あることをみんなが知っていて当然という前提で話が進むので、そもそも二十年前に正確には何が起こったのかすら、初めのうちは読者にはわかりません。ほかにも例えば101ページで副保安官同士がなぜ殴り合いを始めたのかも、あとになってわかる仕掛け。
そうはいっても誰にも知られていない事実もあって、特定の人間の胸にだけ秘められたそうした事実が、権謀術者の方々の計画(未遂)に刺激されて、少しずつ明らかになり始めます。
オーレンと幼なじみのイザベルの仲が悪いきっかけにいたっては、ほとんど小説の終わり近くになってようやく明らかになりました。メインの謎解きとは無関係ながらもこんな肝心なことを伏せたまま、オーレンを本気で殺しかねない何を考えているんだかわからない人間として描き通して、それがまた魅力的なのだから脱帽してしまいます。「殺しかねない」というのは例え話でも何でもなく、この人はほんとうにやってくれるのがかっこいい。
ほかの登場人物もおしなべて、けっこうシリアスな作風のわりには、実は個性的を通り越してほとんど変人しか出てきません。被害者のジョシュにしてからが、決定的な瞬間を切り取る名カメラマンのようにも描かれれば、人の決定的な秘密をつけ回して周りが目に入らなくなるちょっとビョーキな人(というか知恵遅れ?)のようにも描かれていて、一筋縄ではいきません。
『クリスマスに少女は還る』以来のノン・シリーズということでしたが、あちらはストレートな感動と翳と花のある登場人物の魅力、こちらは複雑な展開とひねくれた感動とクセの強すぎる登場人物の魅力、といえそうです。
十七歳の兄と十五歳の弟。ふたりは森へ行き、戻ってきたのは兄ひとりだった。二十年ぶりに帰郷したオーレンを迎えたのは、時が止まったかのように保たれた家。誰かが玄関先に、死んだ弟の骨をひとつずつ置いてゆく。何が起きているのか。次第に明らかになる、町の人々の秘められた顔。迫力のストーリーテリングと卓越した人物造形。『クリスマスに少女は還る』の著者渾身の大作。(カバー裏あらすじより)
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