カレーを食べると名探偵になりきって推理を始める記憶喪失の吉田さん。前作の最後でめでたく(?)記憶を取り戻したのですが……。
記憶を取り戻したことによって失った、記憶喪失のころの記憶を甦らせるべく、前作の関係者たちが名探偵になりきって事件を押しつけます――。
というわけで今回取り上げられているのは二階堂黎人・森博嗣・北村薫・西澤保彦・芦辺拓・麻耶雄嵩・霧舎ご本人。新本格第二世代だそうです。
いろいろな側面からもどかれていますが、森もどきはウェディング・ドレスや「ドアが開く」ところや「スイッチが入る」ところまでもどかれているのが可笑しかった。麻耶もどきはあれもこれも悪ノリしたうえに本書全体を通してのネタまで詰め込まれたすごい作品。原典のキャラが立っているだけに名探偵がうまくもどかれているのが北村薫(のお嬢様探偵)もどきと西澤もどき、ところが二階堂蘭子は影が薄くて「人狼」という趣向もどき。芦辺作だけオリジナルを未読ですが、これは探偵がもどかれてません。
個々の出来は如何にというと――伝聞形式を活かした、「二体しか鑑定させないことで初めて成立する」物理トリックが楽しい「人狼病の恐怖」。あとがきで書かれているネタじゃなくこっちの方が面白い。シリーズのこの位置に収録されるべき「すべてがXになる」。
エリが名探偵になりきっているため、もどきどころかパスティーシュといってもいいような「覆面作家は二人もいらない」は、著者あとがきにある通り「千秋さんを見守る温かい目」までもどかれている意欲作。いかにも北村薫ふうの冒頭が伏線になっていたとは!
ここでもう一回こう来るか!という意外な犯人「万力密室!」。
代名詞の迷宮(ならぬニックネームの迷宮)が当然ながら大胆すぎる(^_^)真相にかかわっている「殺人史劇の13人」。
このネタでもどいて単なる物真似ギャグではなくちゃんと(?)ミステリになっている「夏と冬の迷走曲《どなた》」。しかもしっかりメルカトルの登場と意外な真相(?)までもどいてます。
作家本人が本人の作品をもどくどころか、名探偵本人が名探偵本人をもどくという、もはや意味のわからないというかむしろもどいていないのが「《おかずの扉》研究会」。もどきというより、本書のまとめという位置づけです。
わたしは北村もどき、芦辺もどき、麻耶もどきが面白かったです。あ、そうだ。吉田さんのネーミングの謎が暴かれていました。
次作はあるのかな。
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