『フレンチ警部と紫色の鎌』F・W・クロフツ/井上勇訳(創元推理文庫)★★★☆☆

 『The Purple Sickle Murders』F. W. Crofts、1929年。

 本書の前に読んだのが『毒蛇の謎』『チェインの謎』という、前半が犯人や被害者の冒険で後半がフレンチの捜査という二作で、フレンチが出てくると途端につまらなくなってしまった作品だったのですが、今回は初めからフレンチが登場しているのでその点は心配ありません。

 しかも現在進行形の事件なので、あろうことか警察に相談に来た被害者をみすみす殺させてしまったうえに、第二、第三の被害者を出してしまう危険さえあるという、一応はサスペンス形式です。

 ただしフレンチはあまりぱっとしません。むしろ最後の最後に被害者が大活躍するという不思議な作品でした。

 自殺としか思えない溺死体があがったものの、直前に被害者から話を聞いていたフレンチは、殺人だと直感します。フレンチ以外は誰もが自殺だと信じていましたが……ある事実が明らかになってそれが殺人だと証明されるのですが、その事実がいかにも推理小説的で鮮やかでした。死体は海からあがったのに、肺からは真水が検出された! 個人的には本書で一番盛り上がった箇所でした。

 犯罪のタイプと犯人の残虐さがちぐはぐなのですが、そこがまた残虐さを際立てていると言えないこともありません。肺から真水が――という事実は、単なる殺人捜査のきっかけかと思ってたのですが、まさかそんな残酷な方法だったとは。

 犯人たちの犯行は、今の目で推理小説として読むと、そっくりさんが双子だった的なずっこけ真相に思えるのですが、当時としては実際の貨幣の問題点を指摘した社会派な内容だったのかなあ? あるいはモデルになるような事件でもあったのかどうか。

 映画館の切符売りをしている若い女性が、フレンチ警部に助けを求めてやって来た。誘われるままに深入りした賭け事で借金を作ってしまい、返済のために怪しげな提案をのまざるを得なくなった彼女は、紹介された男の手首に紫色の鎌形のあざを見つけて、変死した知り合いの娘が残した言葉を思い出したというのだ。フレンチ警部執念の捜査があばく、切符売り子連続怪死事件の謎とは。(カバー裏あらすじより)
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