『荒野 12歳 ぼくの小さな黒猫ちゃん』桜庭一樹(文春文庫)★★★★☆

 初出を見ると、もともとはファミ通文庫から出ていたものだそうです。とはいっても内容は一般向け。

 猫は出てこない。「ぼくの小さな黒猫ちゃん」とは、小説家の父親が荒野について話すときの表現です。

 黒髪ロングに眼鏡で巨乳の学級委員というどこぞのオタク向けアニメにでもありそうな定番設定を、萌ネタではなく成長ガジェットに転用させた少女小説。その点ではこの作品がラノベ文庫から出ていた、という事実は重要なのかもしれない。

 アンバランスなのは知らぬ間に成長してゆく身体だけではなく、不安定に揺れる心。一念発起するのは見た目が眼鏡だからという理由で学級委員に選ばれた理不尽へのささやかな抵抗。

 好きな男女が親の再婚で同居するという、どう考えてもあり得ない、これまた定番の設定ですが、そこからお約束のコメディは生まれません。待っているのは、年頃の男女を一緒にはしておけないという、当然の、けれど厳しい現実です。

 鎌倉で小説家の父と暮らす山野内荒野は、中学入学の日、通学註の電車で見知らぬ少年に窮地を救われる。だが、それは彼女の身に起こる小さくて大きな変化の始まりでしかなかった――。“恋”とは、“好き”とは? うつろいゆく季節のなかで、少しずつ大人になっていく少女の四年間を描くビルドゥングスロマン。全三巻の第一巻(カバー裏あらすじより)
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