『短編宇宙』集英社文庫編集部編(集英社文庫)★★☆☆☆

『短編宇宙』集英社文庫編集部編(集英社文庫

 宇宙をテーマにした文庫オリジナルのアンソロジー
 

「南の十字に会いに行く」加納朋子(2017)★★★☆☆
 ――今朝いきなり、「七星《ななせ》、南の島へ行くぞ。石垣島だよ」とパパが言った。「なんで急に?」「いいじゃん、二人っきりの父と娘がたまに旅行に行ったってさ」。飛行機では白髪頭の優しそうなおばあちゃんが隣の席だった。四十年以上会っていない友達に会いにきたという。ベルトコンベアの前で待っていると、黒服に黒い帽子、黒いサングラスに赤いネクタイをしたギャングみたいな男が間を割るようにして荷物を受け取り立ち去った。その後も行く先々にサングラス男がいた。観光者なのであれば行き先が同じなのも不思議ではない。ツアーバスでは眼鏡のお姉さんと仲良くしゃべっていた。「わたしは仕事で来たんですよー」。

 あまりにもきれいにまとまっているので、「おいおいおい」とツッコミを入れながらも、みんなが次々と集まってくるのは漫画やドラマの最終回みたいでほっこりしました。誰からも憧れられるお祖母ちゃんも凄いですが、お空の星になったと思いきや本当に宇宙に行っていたお母さんも凄い人でした。
 

「惑星マスコ」寺地はるな(2021)★★☆☆☆
 ――堤防に仰向けになって空を見ていると、子どもが甲高い声で言った。「あんた宇宙人でしょ」。わたしはかつてほんとうに宇宙人だった。しょっちゅう「空気読めよ」「ここ笑うとこだよ」と言われていた。わたしはおそらく宇宙人で、調査のために地球に送りこまれたのだと思うことにした。故郷の星は自分の名をとって惑星マスコとつけた。そして中学生になる頃、「みんなと同じ」を選べるようになった。その子は坂本きららといい、家の隣にも宇宙人がいるという。男のくせにヨガをやっていて、喋りかたもへんで、夜中にスパンスパン聞こえる。

 書き下ろし。ポプラ社小説新人賞出身作家。他人とは違うゆえに生きづらい三人が出会って生まれる新しい交流。日本映画が好んで採用しそうなテーマです。
 

「空へ昇る」深緑野分(2021)★★☆☆☆
 ――土塊昇天現象を一番はじめに目撃した人物は、異常と感じたろうか? 「驚くのは予期できる反応だろう」「君は生まれてはじめて土塊昇天現象を見た時、驚いたのかね?」「……いや」。日々、世界中のあらゆる場所に、大人の指が二本入る程度の小さな穴が穿たれ、小さな土塊が浮かび上がり、天へ昇ってゆく。ついに宇宙へ飛び出すと一列に並び、星の周りを囲う細い輪となってゆっくりと回転する。

 書き下ろし。新境地、と言えばよいのか、ちょっと著者に期待していた作風とは違いました。
 

「惑い星」酉島伝法(2021)★★☆☆☆
 ――後に旺星と呼ばれることになる赫い球體は、自らが生まれたばかりの新星児であることも、親である凜凱星の傍らにいることも知らずに、體の中心から噴き上がってくる、怒りとも悲しみともつかない、混沌と煮え滾った摩具吾をただただ吐き出そうと激しく痙攣していたが、全身をなしているのも摩具吾であるため、體内から輻射する視えない暗縻手で押さえ込まずにはおれず、熱い奔流どうしが貪り合うように蠢くばかりだった。

 書き下ろし。いつもの酉島印です。
 

「アンテュルディエン?」雪舟えま(2021)

 書き下ろし。
 

「キリング・ベクトル」宮澤伊織(2017)
 

「小さな家と生きものの木」川端裕人(2021)

 書き下ろし。

 最近、夜空を見上げていますか? 個性豊かな人気作家陣が「宇宙」をテーマに描くのは、無限の想像力がきらめく七つの物語。石垣島を旅する父娘に、コロナ禍でステイホーム中の天文学者。銀河を舞台に戦う殺し屋に、恋する惑星⁉ じんわり泣ける家族小説から、前衛的SF作品まで、未知との遭遇を約束する傑作アンソロジー。鬱屈した日々に息苦しさを覚えたら、この一冊とともに、いざ宇宙へ!(カバーあらすじ)

 [amazon で見る]
 短編宇宙 


防犯カメラ