『パララバ』『ボクらのキセキ』と読んできて、著者にミステリ体質があるのはわかっていましたが、それは本書でも健在でした。「何となくミステリ」なのではなくて、ちゃんと地の文や伏線にも(かなり)気を遣われているので、再読するのが楽しい作品でした。
しかしそれよりも、本書で目を惹くのは何といってもあとがきです。
「数年前、建築士が実際に小説に出てくる建物の図面を引いてみる本、というものを買ったのですが、その中にこんな感じの一節がありました。/『ミステリの建物は人里離れた一軒家が多い。たまには都内住宅密集地の狭い家が舞台の連続殺人物はないものか』/それはちょっと面白そうです。(中略)/気がついたら、こんな話ができあがりました。」
何というミステリ・マインド!(^_^)。誰かさんに爪の垢を煎じて飲ませてあげたい。
結果的に連続殺人ものではなくなりましたが、都内住宅密集地の狭い家が舞台にするために著者が用意したのは、大学の演劇サークル。心理学の教授がおこなう実験のアルバイトに、合宿も兼ねて参加することになりました。宇宙飛行士のように一か月のあいだ外界と接することなく狭い場所に閉じこもって同じメンバーと生活する、という実験です。一度でも外に出てしまったら実験は終了、バイト代もなし――。部屋のなかを通らなければほかの部屋にもいけないような狭いアパート、開け閉めすればものすごい音がする年代物の窓やドア、家中の話し声や物音が聞こえるような薄い壁……ところが誰にも気づかれずにメンバーの一人が姿を消してしまいます――。
いくつものギミックが幾重にもてんこ盛りなので、一つ二つなら見抜けても、すべての真相を見抜くのはけっこう難しいと思います。駄洒落好きや沖縄弁など台詞でキャラを書き分けていると思しいのですが、そういう「キャラ小説」を逆手に取った、あるミステリの仕掛けというのはやられた〜という感じですね。こういう書き方もあるのかと。
心理学の実験はともかく、みんなけっこう黒いのがだんだんとさらされます。最後の最後に語り手の黒さも明らかにされるのですが、これが天真爛漫クンだけにちょっと怖い。青春ものっぽくて何気にぴりりと黒い作品でした。
あだ名といえば『十角館』ですが、あっちより出来はスマートだと思います。
演劇サークルの活動費を捻出するため、心理学部の享受が行う奇妙な実験に参加した大学サークルのメンバーたち。外界との接触を遮断されて、一ヶ月間、ひとつ屋根の下で過ごすことになった彼らは、「お風呂が狭い」、「部屋の壁が薄い」、「外の空気を吸いたい」と文句を言いながらも、文化祭前夜のような日々を、それなりに楽しみながら過ごしていた。しかし実験開始から6日目、サークルのアイドル的存在の雪姫が、忽然と姿を消して……。(カバー裏あらすじより)
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