『致死量未満の殺人』三沢陽一(ハヤカワ文庫JA)★★★★☆

 第3回アガサ・クリスティー賞受賞作。

 著者みずからが考えた「新古典派」というフレーズに相応しい、古式ゆかしさとひねりの同居した本格ミステリです。

 デビュー作なので欠点もある――けれどそこはそれ、と割り切りながら読んでゆきます。

 たとえば、「クローズド・サークルの作り方が雑だなあ」。不審死→毒殺に違いない→犯人は身内だから警察が来る前に見つけて自首させよう。シチュエーション自体が謎解きもののお約束とはいえ、もうちょっと何とかそれっぽい説明がつけられなかったものか。

 たとえば、弥生とのつきあい方。いくら同じゼミだからって、そこまで嫌な奴ならもうちょっと対処の仕方もあるのでは――?

 龍太は事件の十五年後である冒頭で犯行を告白します。だからこれは犯人探しではなく、誰にも毒を盛れない状況で犯人はどうやって毒を盛ったか、というハウダニット――にしても、せいぜい中篇ネタで、それで長篇引っ張るのは長すぎるのでは?

 龍太の動機だけ、しょぼくね? 容疑者全員に動機があるなかで、よりにもよって犯行を自白している人間の動機が、なんだか一番ばかみたい。。。

 ――いや、お見それしました。どれも瑕ではなく、そういうふうに構成されていたとは。

 たとえば二つ目。弥生がそこまで憎まれていてしかもみんなと同じ現場にいる状況、というのが必要だったのですね。いわば、こういう被害者でなければ成立しない犯罪。

 三つ目と一つ目に関しては、読めばわかるとおり、ひねりの利いた展開が待っていました。雑に見える不自然さも、偶然ではなく必然に導かれてのことでした。まあ実際不自然であることに変わりはないのですが、著者に自覚がないのか故意なのかで全然違いますしね。

 龍太の動機だけしょぼいのも、最後まで読むと何となくわかります。一人だけ事件後のフォローもしてもらえず、要は可哀相な役回りなんですね。

 メイン(?)・トリックは単純であるがゆえに輝いています。困難は分割せよ。タイトルも決まっています。それがさらに一ひねりされている複雑な(というほどでもないですが)真相も、技巧のための技巧という感じではなくて、むしろ応募時タイトル(『コンダクターを撃て』)からすると、さらにその先の真相こそメイン・トリックであり主たる主題であったのでしょう。

 雪に閉ざされた山荘で女子大生・弥生が毒殺された。容疑者は同泊のゼミ仲間の4人。外界から切り離された密室状況で、犯人はどうやって彼女だけに毒を飲ませたのか。容疑者4人は推理合戦を始めるが……そして事件未解決のまま時効が迫った15年後、容疑者の一人が唐突に告げた。「弥生を殺したのは俺だよ」推理とどんでん返しの果てに明かされる驚愕の真実とは? 第3回アガサ・クリスティー賞に輝く正統派本格ミステリ(カバーあらすじ)

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