『ミステリーズ!』vol.55 2012年OCT【第九回ミステリーズ新人賞受賞作決定/没後十年、鮎川哲也を読み直す】

 鮎川哲也賞は青崎有吾『体育館の殺人』。館シリーズのもじりだと言われるまで気づかなかった。

 ミステリーズ!新人賞は近田鳶迩「かんがえるひとになりかけ」。本書に掲載。殺人事件の被害者の意識が胎児に乗り移り、聴覚だけで推理する、という趣向。「あるとき突然胎児の意識に乗り移った」「聴覚だけがたより」という設定が、時間を誤認させるために効果的に使われていて、奇をてらっただけのものではありませんでした。

「青鬼の涙」市田
 厳格な祖父が見せた涙のわけは……?聴き屋シリーズ。探偵役の一家勢揃いというのが珍しい。

魔の山の殺人』(6)笠井潔
 宿泊客の一人は著名な哲学者だった。そして第二の事件が……。ルカーチがモデルの哲学者が登場します。

桜庭一樹講演 故郷を書くために、故郷を離れるということ」
 小説を書くということを箱庭療法になぞらえています。『砂糖菓子』のあの子が『私の男』のお父さんであり、『ファミリーポートレイト』のお母さんであり、『ばらばら死体』であり、『傷痕』のスーパースターであり、『無花果とムーン』のお兄さん

『ねじまき片想い 宝子のおもちゃ事件簿』(3)「花やしきではちあわせ」柚木麻子
 ――新作発表会。宝子はアニメ製作を西島に依頼するが、いつまで経っても西島が会場に姿を現さない。

 何が謎なのかもわからないまま現在進行形で話が進んでゆく、こういうタイプの話は大好きです。現場を実際に目にしている登場人物と比べて、文章でしか「見る」ことができない読者にはハンデがあります。そういう意味で、意地悪く隠しているわけではないのに、よほど注意深い読者以外には「見えない」伏線も巧みでした。そして運命の出会いが……?
 

「ピーナツと香水」クリスタ・デイヴィス/島村浩子訳(Dead-Eye Gravy,Krista Davis,2011)
 デイナはキャビンに落ちていたピーナツバターを見つけた。息子がピーナツアレルギーだから家族なら持ち込まないはずだ。夫が友人にキャビンを貸したのだろうか……?

「提灯譚」中村弦
 ハロウィンに作ったジャック・オー・ランタンは、死んだ彼氏に似ていた……。ファンタジーファンタジーしたファンタジー

「ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション」(6)川出正樹
 「クライム・クラブ編」その5(最後)。「「クライム・クラブ」が誇るベスト・ワン(刊行予告コメント)」「再刊に値する埋もれた傑作」というジョーン・フレミング乙女の祈り、「閉ざされた部屋の中での被疑者と警察官との対話が冒頭から末尾まで全二六〇ページにわたって、延々と繰り広げられていく」「埋もれた傑作」リー・ハワード『死の逢びき』はぜひ読みたいところ。

 新刊紹介欄で気になったのは、津原泰水「幽明志怪」シリーズ完結編『猫ノ眼時計』ジェイムズ・ホッグ『悪の誘惑』は『ドグラ・マグラ』や『最後の審判の巨匠』の「目が眩むような感覚に近」いそうです。
 

「レイコの部屋」(5)
 今回は夏来健次氏がゲスト。

 


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