『ミステリーズ!』vol.61

「第23回鮎川哲也賞/第10回ミステリーズ!新人賞 選考経過」
 選考会を読むかぎりでは、受賞作『名探偵の証明』とキャラクターが魅力な『ねずみと巨獣』そえだ信、受賞作「サーチライトと誘蛾灯」・幻想小説ふうの鎌田秀美「瓢虫」・そつのない謎解き小説である小泉時彦「雷王の礎」・戯曲ふうの唐沢拓麿「白の下」・ミッシングリンクもの多々垣良「青いオウム事件」あたりが面白そうでした。
 

市川哲也・櫻田智也インタビュー」
 受賞者インタビュー。鮎川賞受賞者・市川哲也氏、名探偵とは何かを問うた作品で、「読んだミステリの中で最高の一作」が麻耶雄嵩作品である、とくれば期待大。
 

「サーチライトと誘蛾灯」櫻田智也
 ――夜の公園を見回りしていた吉森は、白いテントを張っている怪しげな男を見つけ、呼びとめた。「何をしているのかな。お仲間のせいで条例まで作ったんだ」「ヨウチュウの話ですか」「そう、要注意だったんだ」。翌朝、その公園に張り込んでいた探偵が死体で発見された。

 第10回ミステリーズ!新人賞受賞作。選考でも指摘され、著者本人も認める通り、泡坂妻夫の(特に亜愛一郎シリーズの)影響をもろに受けた作品です。しかしながらこれまた選考委員も著者も認める通り、そこから泡坂流の軽やかなロジックが抜け落ちた作品でもあります。
 

一刀流“夢想剣”」高井忍
 ――実力伯仲の武芸者同士が白刃で雌雄を決したという話題性において、一刀流の継承をめぐる、善鬼と神子上典膳の決闘に匹敵するものはない。ところが始祖である伊東一刀斎については不思議なほどつまびらかではない。

 経歴不肖の一刀斎について、『干城小伝』に「歿日は七日なり」とあることから想像をふくらませた歴史ミステリ。経歴に諸説あることを逆手に取って伝説に合理的な解釈が与えられています。三十三戦無敗という驚異的な数字も、そういうことなら誇張された英雄伝説ではなくなるわけです。何よりこの考え方だと、事跡の絶えたことや人格的な問題も解決できてしまうのが見事でした。
 

『誉れ高き勇敢なブルーよ』(1)本城雅人
 ――3年前。サッカー日本代表の新監督候補との交渉をスポーツ紙にすっぱ抜かれ、構想を白紙に戻された望月は、責任を取って辞職し、今はJFLのチームのGMをしていた。……が、日本代表の不振を受け、再び白羽の矢が立てられた。期限は25日後。WCで優勝できる新監督を探さなくてはならない。だがスポーツ記者が再び邪魔をしようとする。

 新連載。出てくるスポーツ記者の誰一人としてスポーツそのものには興味がなさそうなところが、ある意味プロだな、と思いました。プロスポーツの世界で、表舞台で脚光を浴びるプロ選手以外の、スタッフやスポーツ記者といったプロフェッショナルの戦いが見られそうです。
 

「私はこれが訳したい(12)」務台夏子
 デュ・モーリア『ジャマイカ・イン』(邦題『埋もれた青春』)。デュ・モーリアももっと手軽に多くの作品が入手できてほしい作家です。本格やハードボイルドと違って、サスペンスに分類される作品はコアなマニアがつかないためか、息が長く広く出版されない印象があります。
 

「銃の細道(8)」小林宏
 今回はショットガン。ショットガンは「弾薬」ではなく「実包」、「口径」ではなく「番(径)」というのだそうです。
 

「ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション 魅惑の翻訳ミステリ叢書探訪記(12) ウィークエンド・ブックス編その2」川出正樹
 映画化作品が多い。逢坂剛が「折に触れて言及」しているヤン・デ・ハートック(ハルトグ)『遙かなる星』が読みたい。文庫だと図書館にもないんだよねえ。砂漠に墜落した飛行機から「無傷の部品を組み合わせて単発機を造り脱出すべく奮闘する様を描いた」「極限状況下の人間ドラマ」であるエルストン・トレヴァー(エレストン・トレーバー)『飛べ! フェニックス号』ネヴィル(ネイビル)・シュート『失われた虹とバラと』、レナード(レオナード)・ウイバーリー『小鼠、ニューヨークを侵略(ニューヨーク侵略さる)』。意外といっては失礼ですが、読みたい作品が多かったです。
 

ミステリーズ!ブックレビュー」
 梓崎優『リバーサイド・チルドレン』、青崎有吾『水族館の殺人』、小島正樹『硝子の探偵と消えた白バイ』『十三回忌(改稿文庫版)』『永遠の殺人者 おんぶ探偵・城沢薫の手日記』、『皆川博子コレクション3 冬の雅歌』といったところはもちろんですが、それに加えてパール文庫という、昔のジュヴナイルを文庫化した作品群が気になります。紹介されている小酒井不木『少年科学探偵』のほか、大河内翠山『真田幸村』、菊池寛『心の王冠』、海野十三『海底大陸』、松田瓊子『七つの蕾』、寺島柾史『怪奇人造島』が刊行されている模様。
 

「レイコの部屋」
 今回は東京創元社の製作部。「組版や造本」から電子書籍を考えているのが、製作部らしい見方だな、と思いました。
 

 


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