アイデアストーリーの新しい才能。比較的わかりやすい寓話の「一角獣幻想」から、SF的な固定観念を逆手に取った「卵生少女」など、視点をちょっとずらすことで、さまざまな驚きが生まれています。
「花いちもんめ」★★★☆☆
――花いちもんめという遊びは、集団の中での個々の人気が如実に表れるトレード・ゲームだ。みんなに好かれている子は両陣営から引っ張りだこになる。貫太自身が自分のグループにいて欲しいと思うのは、友だちではなく、実は担任の佐久間先生だった。
人を奪い合う花いちもんめという遊びと、一緒にいたい憧れの先生という存在を、定番の怪談話にうまく絡めてあります。夢かうつつのような幻想的な悪夢に、たった一つさり気ないリアリティが加えられることで圧倒的な恐怖が呼び起こされていました。
「一角獣幻想」★★★★☆
――ユニコーンを捕まえるには乙女が必要だ、と、ものの本には書いてある。「凛ちゃん、知ってる?」五十二歳になる養母の嘉子が少女のように悪戯っぽく笑った。「このあたりにはユニコーンがいるのよ。私も一度だけ見たことがあるの」「普通の馬だったんじゃないのか」養父の要蔵はそんな話を信じていないようだ。
これも根っこになっているアイデア自体はありきたりなのですが、不気味な存在感を放つ一角獣や、一角獣に殺されたかのような殺人事件など、たとえオチがなくとも優れた幻想小説として充分に楽しめる出来でした。
「終わりなき夏」★★★★☆
――それにしても単調な道路だ。助手席には夏の初めに出会った茶髪の女性が座っている。コンポからは夏の定番といわれるバンドの流行歌。「ねえ、あたしのこと、愛してる?」「愛してるよ」彼は惰性のように答えた。
ショート・ショートです。さり気ない台詞に張られた伏線と、アイデアを効果的に活かす構成が見事です。
「敗北」★★★☆☆
――勝つことが生きることだった。敗北は死を意味していた。勝者の席は一つ。着床と同時に、彼の胴体からは役目を終えた長いしっぽが切れ落ち、彼とゴールは一体化して、受精卵と呼ばれるものに変わった。
せっかく「敗北は死」に勝てたのに、死んで敗北することを選んでしまった人生でした。
「母願う」★★★★☆
――母が起こした追突事故の相手が家に押しかけてきた。「あんなやつ、ダンプにひかれて、頭がぺしゃんこになってしまえばいいのに」……母が口にしたその一言が、すべての始まりだった……。
落語で言うところの考え落ちのような結末ですが、死を覚悟した子離れできない母親が、何を思うか――ということを考えれば、これしかないような結末でした。母の脳血塊という伏線が「超能力」と「確実な死」の二つの意味で用いられており、さらには脳血塊の原因となった事故も、超能力の取得だけではなく超能力発動のきっかけにもなっているなど、本書中でも完成度の高い作品です。
「方舟荘殺人事件」★★★☆☆
――紛争は全面核戦争に発展する可能性があった。 リサは兄の郁弥や同級生たちとシェルターに逃げ込んだが……六人しかいないはずのシェルターで、殺人事件が起こった。
う〜ん。ここまでやるとギャグになってしまうような。。。
「卵生少女」★★★★☆
――「あなたは卵から生まれたのです」と長老からは言われたが、小夜子は昔のことを思い出せない。海岸に流れ着いた卵から、十五歳の小夜子が現れたのだ。同時に地震が止んだことから、小夜子は巫女として崇められることになった。
幻想小説風の作品が多い本書にあって、かなりSF度の強い作品です。しかもそれがある種のレッドヘリングにもなっているのだから見事というほかありません。○○タイプのSFだということを自明のものとして、話がどう転がるのかと思いながら読んでいたら、実は××というタイプのSFであったのですから、参りました。