『百鬼夜行抄』(23)今市子(朝日新聞出版Nemuki+コミックス)★★★★★

「迷宮の住人」★★★★★
 ――よそゆきの着物を着た美月を、僕はわざと無視した……。矢沢にはどうしてもタイトルも結末も思い出せない映画があった。その映画が気になった律も巻き込まれ、やがて映画の通りに二階の窓に明かりが灯り……。


 メインストーリーとは直接的な関わりのない怪異が併走することで、それが物語を複雑で面白いものにしていました。本書収録のものでは「鬼達の忘れ物」「うしろの正面」でもこうした手法が取られており、マンネリ化しかけていたシリーズにふたたび活気が出てきました。青嵐ともお祖父ちゃんとも開さんとも無縁なので純粋に怪談として楽しめます。複雑そうに見えて背景となる因縁はシンプルなため、「映画の記憶が途中で途切れている理由」を軸に、すべてがすっきり解き明かされる。
 

「まつとしきかば」★★★★☆
 ――小学生のころから律が留守のときにかぎって家を訪れる「たかし君」。だが律には心当たりがない。あれは「武士《たけし》」だったろうか。近所のおばちゃんの留守に家にあがりこみ、見つかった武士君は……。


 晶ちゃん久しぶり。悪い記憶が封印されている――「迷宮の住人」にしても「うしろの正面」にしてもそういう話なのですが、この「まつとしきかば」は、封印された記憶が甦ったと思わせておいてその裏を掻いた作品でした。
 

「鬼達の忘れ物」★★★★★
 ――おばあちゃんの生徒・藤田さんは司によく似た長い髪の持ち主だった。司が街の写真スタジオで、藤田さんが絹からもらった桔梗柄の藤色の着物を目撃した直後、藤田さんが行方不明に。一方、遺品整理の仕事に就いた開は、さまざまな霊に悩まされていた。さらに、開の見合い写真に藤田さんの写真が混ざってしまい、死んだ(はずの)息子の結婚相手をさがしに来た薫さんが写真を持ち去ってしまう。


 「お見合い写真」を中心にして、三つのストーリーが錯綜していますが、整理すると、1)藤田さん関連は怪異ではない(着物の詳しい出所は不明ながら、スタジオが着物を入手したいきさつは店員の証言通りであり、失踪の理由もはっきりしています)。2)開さんの仕事の話はそのまんま開さんの苦労話です。3)怪異は薫さんに憑いていました。懐かしすぎるキャラが登場します。開さんの仕事の話に伏線がありました。
 

「うしろの正面」★★★★☆
 ――小学生のころ、大人のいいつけを守らなかった僕は、サヤには二度と会えなかった……。大学生になり探偵のアルバイトを始めた僕の初仕事は、ペットの捜索。聞き込み中に飯島律を見かけた。あの日、すべてを飯島君のせいにしてから避け続けていたのに。飯島はやっぱり見えないものに話しかけている。


 「十年前」というのがわかりません。現在から見て「十年前」だとするなら、「あの夏 町で行方不明になった少女はいない」という文章に矛盾します。発見時の「十年前」だとするなら、1)発見直前に死んだとするならそれまでの十年間どこでどうしていたのかがわかりませんし、2)白骨死体が十年ぶりに見つかったとするなら「○○の○○○○」小中学生のときの犯行ということになりますし、発見時に犯人があそこで何をしていたのかがわかりません。
 

雛人形の無い家」★★★★☆
 ――飯島家にはないはずの雛人形を、環姉さん斐姉さんは子どものころ見たことがあるという。一方、父親の遺品整理をしていた山瀬には、父親から「人形が来ても家に入れてはいけない」と言われた記憶があった……。


 『ネムキ+』2014年3月号http://d.hatena.ne.jp/doshin/20140223で既読。開さんが遺品整理の縁で結果的に蝸牛の仕事を引き継いでいました。開さんらしく、「人形屋」が目当てという動機ではありますが。
 

 


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