伊藤計劃特集。言うまでもありませんが、「伊藤計劃の新作」が掲載されているわけもなく。。。伊藤計劃と「同世代」「以後」の作家たちと、伊藤計劃以後のSFの状況と展望についてです。予告によれば次回も伊藤計劃特集。『虐殺器官』『ハーモニー』『屍者の帝国』の劇場アニメにスポットを当てた特集だそうです。
「書評など」
◆『殊能将之日記』は、殊能将之のウェブダイアリーから、読書日記の部分を抜き出したもの。評者は若島正。内容の紹介ではなく「殊能将之はどうやって生まれたのか」について書かれながら、しっかり書評になっており、「どうやって生まれたのか」を自分なりに確かめるために本書を読みたくなってきます。
◆マーク・ホダー『ねじまき男と機械の心』は、『バネ足ジャック』の続篇。ステファン・グラビンスキ『動きの悪魔』は、「ポーランドのポー」「ポーランドのラヴクラフト」による鉄道怪奇幻想作品集。
◆ニック・ハーカウェイ『エンジェルメイカー』。ポケミス。ノーチェックでしたが、「読み心地は、同じ英国作家であるローレンス・ノーフォークの『ジョン・ランプリエールの辞書』に近い」と書かれると、気になります。
「SFのある文学誌(42) 進化論の詩学3 奇異譚から小説への『進化』」長山靖生
坪内逍遙『小説神髄』。
「大森望の新SF観光局(47)殊能将之の出来るまで(SF篇)」
「近代日本奇想小説史 大正・昭和篇(23) 宮崎一雨の世界2」横田順彌
「彼女の時間」早瀬耕★★★★☆
――宇宙飛行士になりたくてNASDAに向かう時、由美子がはめていた腕時計をくれた。「直樹はこの時計が動いている限り、自分の正義に忠実でいてほしい」。彼女とはそれ以来、会っていない。現在のぼくが配属されたのは事務方で、意外なことにそこでの仕事が順調だった。そんな生活の中でも、セイコーの時計だけが精確に時の中を滑っていく。「この時計は当たりだな。日差一秒もない」老時計店主の言葉だ。
「時間を進める振り子は、世界にいくつあると思う?」 かつての彼女から送られたのが精確すぎる時計だったこともあり、語り手は時間について深く考えるようになります。やがて宇宙計画において人道的な問題が持ち上がりますが、宇宙飛行士への夢を捨てきれない語り手は寝ている最中の夢のなかで、とある決断をせざるを得なくなりました。そこで由美子との約束と、「時間は一定には進んでいないかもしれ」ないという思いがつながって、印象的な結末を迎えます。