『晴れた日は図書館へいこう』緑川聖司(ポプラ文庫ピュアフル)

 図書館の日常ミステリ、ということで、森谷明子『れんげ野原のまんなかで』のようなものを期待して手に取りますが、北村薫が『ミステリ十二か月』で取り上げていて、『北村薫のミステリー館』に第一話「わたしの本」を採録していたことはまったく覚えていませんでした。読んでも思い出さなかったということはよほど印象が薄かったのでしょう。

 実際「わたしの本」「長い旅」の二つは「日常の謎」というより「小学生の謎」というほうがしっくり来るような、謎ともいえないようなささやかな物語でした。かろうじて「長い旅」には戦争の重みがのしかかっていますが。

 「ぬれた本の謎」ではわざわざ返却ポストに缶コーヒーをぶちまける高校生、「消えた本の謎」では図書館の本を万引きする利用者、「エピローグはプロローグ」では子どもを叱らない親、といった社会問題が描かれると同時に、「ぬれた本の謎」では女の子に対する、「消えた本の謎」では男の友だちに対する、小学生男子ならではの動機が描かれていて、やはり「犯行」と動機が分かちがたく結びついているこういった作品の方が出来がいいです。

 書き下ろし作品「雨の日も図書館へいこう」では、雷の鳴る場面を、(1)子どもたちが雨のなかで本を読むお姉さんを心配して見に行くきっかけ、(2)子どもたちは結果的に録音の邪魔をしてしまったけれど雷の音でも中断したから気にしないでほしいという心配り、の二つの意図で用いていて、ミステリ云々というより小説の技巧として確実に成長しているところを見せてくれています。

 茅野しおりの日課は、憧れのいとこ、美弥子さんが司書をしている雲峰市立図書館へ通うこと。そこでは、日々、本にまつわるちょっと変わった事件が起きている。六十年前に貸し出された本を返しにきた少年、次々と行方不明になる本に隠された秘密……本と図書館を愛するすべての人に贈る、とっておきの“日常の謎”。知る人ぞ知るミステリーの名作が、書き下ろし短編を加えて待望の文庫化。(カバーあらすじより)

  [楽天] 


防犯カメラ