『生首に聞いてみろ』法月綸太郎(角川文庫)★★☆☆☆

 死体の首を切断したのは、石膏像の首を切断した理由を隠すためだった、という衝撃的であるはずの真相ですが、石膏像の首を切断するに至った理由自体が独りよがりの美術論であり、その時点で説得力がないので、そうした説得力のない美術論の上に立つ切断動機も当然説得力がないのでした。

 デビュー当時はとんがっていたのに歳を取るにしたがい心理面に重きを置いた作品に移行してゆく作家は多いのですが、著者の場合はどうやら逆のようです。『雪密室』『頼子のために』で、ロス・マクの世界に飛び込んだエラリー・クイーンのような、珍妙でいながら感動的な作品をものしていたというのに、いつのまにやら綸太郎はただの推理機械に成り下がって(成り上がって?)いました。彫刻家である兄の誤解が解けなければ、犯人の過去の悪事も露見せず、今回の被害者も殺されずに済んだものを……という弟の述懐が、そらぞらしく聞こえます。

 首を切り取られた石膏像が、殺人を予告する―著名な彫刻家・川島伊作が病死した。彼が倒れる直前に完成させた、娘の江知佳をモデルにした石膏像の首が切り取られ、持ち去られてしまう。悪質ないたずらなのか、それとも江知佳への殺人予告か。三転四転する謎に迫る名探偵・法月綸太郎の推理の行方は――!? 幾重にも絡んだ悲劇の幕が、いま、開く。

  


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