『天国ゆきカレンダー』西本秋(ハヤカワ文庫JA)★★★★☆

 いじめっ子から出された夏休みの課題は、「天国ゆきカレンダー」と題された、自殺までのカウントダウンの記された予定表だった――衝撃的というよりはむしろ魅力的な設定が目を惹きます。

 主人公・七果はいじめられているとは言っても悲愴感はありません。とても強く、後ろ向きに真っ直ぐ前を向き、好きなものを好きと言えて、ある意味で凛々しい存在です。

 だから、カレンダーの通りに「天国ゆき」を実行しようと開き直って出た旅も、悲しい逃避行などではなく、わくわくする一夏の冒険のようなきらめきすら感じられました。

 それは、ある意味ではこの作品の欠点なのでしょう。どれだけいじめや乱暴や痛みが描かれようとも、そうした暴力の暗さよりも主人公たちの生の眩しさに覆われてしまうのですから。それは同時に、もちろん魅力でもあります。

 「世界中を敵に回しても、ママだけはナナちゃんの味方だから」という陳腐な言葉に宿る重み、事情を知っていながら昔と同じく振る舞って何も言わず何も聞かなかった旧友、「それがどれほど痛いかわかっていない。だから、そんな馬鹿な真似できるんだ」という心からの叱責、自分の父親は「待っていてくれる人ではないよ」という吐露。非日常だからこそ気づけることや再確認できること、口にできることはあるのでしょう。

 そして忘れてはならないのが、この作品が「青春ミステリ」だということです。わかりやすい大ネタから二つ三つと派生する意外性や、出待ちに登場する「峰ちゃん」といったさり気ない伏線など、ささやかではありますがまぎれもないミステリ作品でした。

 高校一年の夏休み、仲石七果はクラスメイトから渡された自殺までの課題付きカレンダーを持って、自転車で旅に出た。唯一の心の支えだったバンドグループのボーカルの婚約発表を受け、最後にサマーツアーを見届けたら死ぬと決めて。そんな旅に、テレビ局での入り待ち中に出会った無愛想な男子高校生・畑野葉がなぜか同行することになる……七果の葛藤と成長、そしてふたりが過ごしたひと夏の行方を描く、鮮烈な青春ミステリ。(カバー裏あらすじより)

  


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