『現代華文推理系列 第一集』稲村文吾訳(kindle)★★☆☆☆

 中国&台湾のミステリ作家の作品四篇が収録されています。水天一色の作品が目当てでした。単品でも購入できるのですが、未知の作家の作品も読みたいので短篇集を読みました。
 

「人体博物館殺人事件」御手洗熊猫(人体博物館謀殺案,御手洗熊猫,2008)★★☆☆☆
 ――人体博物館に招待された医師、マジシャン、漫画家、モデル、推理作家。やがて怪盗梅澤から予告状が届く。展示されているファラオの黄金仮面を頂戴する……。翌日、ガラスドームから仮面は消え、水で満たされたドーム内には死体が……。名探偵・御手洗濁が事件に挑む。

 ペンネームからもわかるとおり著者は御手洗潔シリーズのファンなのでしょう。島田荘司の名も見えます。舞台も日本で、登場人物が日本のミステリゆかりの名前になっています。視点が定まらず読みづらく、トリックも小細工しすぎてほとんど意味不明でしたし、消去法もまるで説得力がありませんでしたし、動機もあまりにも弱すぎました。中国ミステリはまだまだ途上にあるようです。
 

「おれみたいな奴が」水天一(我這様的人,水天一色,2008/2009)★★★☆☆
 ――研究所の老靳は卑屈な老人だった。パーティでは意地汚く、研究所の備品は失敬し、子どもの頃はいじめられっ子で今は妻の尻に敷かれている。息子が結婚することになり、嫌々ながら社宅の抽選に応募した。ある日、日曜日に出勤してみると、同じ苗字の大研究家・靳がいた。

 島田荘司監修〈アジア本格リーグ〉のなかでも出色だった『蝶の夢 乱神館記』の著者による短篇です。殺人を犯したあとに探偵小説(論)で勉強するという、どう考えても周回遅れな発想が、犯人の駄目人間ぶりを強調しているとはいえ、犯行から何からあまりにも頭が悪すぎて、ミステリとしての驚きや面白さはありません。しかしながら地に落ちるためだけに生まれてきたかのような徹底した駄目人間の描写には、悪人というわけでもないのにここまで嫌悪・蔑み・不快を感じさせる登場人物が書けるものかと、呆然とします。――が、読後感は最低で、イヤミス中のイヤミスでした。
 

「バドミントンコートの亡霊」林斯諺(羽球場的亡霊,林斯諺,2004)★☆☆☆☆
 ――哲学者探偵・林若平は警察の張から事件の相談を受けた。師範学院の鍵の掛かった体育館バドミントンコートのなかから、絞殺された女子学生が発見された。三角形に並べられたシャトルに囲まれて……。管理人が遺書を残して自殺し、事件は解決したかに思えたが……。

 古い時代の安楽椅子探偵ミステリです。長々と関係者の情報とアリバイを列挙してゆくスタイルは正直言って退屈でしたし、計画的なわりには運任せとも言える密室トリックも労力が多いわりにはしょぼくれていました。
 

「犯罪の赤い糸」寵物先生(犯罪紅線,寵物先生,2007)★★☆☆☆
 ――男女の小指を赤い糸で結ぶと二人は一緒になるそうですよ。でも私達のはそんなロマンティックじゃなく、十年前に起きた犯罪なんです。クラブに勤めていた私はお客さん葵にふられて泣いていました……。翠は出来心から葵の息子を攫ってしまった……。一方、近所に住む程は葵に復讐しようとしていた……。

 長篇『虚擬街頭漂流記』の邦訳があります。弱者二人が計画した復讐が交差して……という錯覚を利用した作品ですが、日本ではこの手の作品が多産されているのでさほど驚きはありませんし、あまりスマートな出来ではありません。語り手の夫婦の正体に至っては驚きでも何でもなく、トリックのためのトリックという感じでした。
 

  


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