『ナイトランド・クォータリー』vol.07【魔術師たちの饗宴】

「Night Land Gallery 森環」沙月樹京

「魔の図像学(7)フランシスコ・デ・ゴヤ樋口ヒロユキ

安田均インタビュー 小説とゲームを結ぶ好奇心の魔術」牧原勝志
 

「妖術師の帰還」クラーク・アシュトン・スミス/植草昌実訳/藤原ヨウコウ画(The Return of the Sorcerer,Clark Ashton Smith,1931)★★★★☆
 ――アラビア語のできる私は雇われたのは、『ネクロノミコン』という書物の一節を翻訳するためだった。隠者めいた雰囲気のジョン・カーンビイが説明している最中、廊下の方から何かが這いずっているような音が聞こえた。

 死者の復活をきっちりとおぞましく描いた作品は意外と少ないような気がします。それでいてただの残虐趣味に陥ることなく、最後の瞬間までは思わせぶりや雰囲気で盛り上げている正統派でした。
 

「STRANGE STORIES――奇妙な味の古典を求めて(4) 忘れられた作家オーモニア」安田均

「禁断の選択」ルーシー・A・スナイダー/小倉姿子訳(Abandonment Option,Lucy A. Snyder,2013)★★★☆☆
 ――マーティンは父親から魔術を受け継いだ。死んだのち甦らせられた泥棒男爵ジェイ・グールドの予言にしたがい、一族は成功してきたのだった。そんなマーティンが今は刑務所のなかにいた。

 予言にしたがい成功を収めたはずの男が、なぜ投獄させられたのか。予言は効かなかったのか――。予言する死者という存在を、予言と不死という二つの観点で描いています。
 

「よみがえるヘレナ」サラ・モネット/安原和見訳(Bringing Helena Back,Sarah Monette,2004)★★★☆☆
 ――暗号やパズルを解くのが得意だったわたしは、ブレインから、死んだ妻ヘレナを甦らせるため魔術書の暗号を解いてほしいと頼まれた。ブレインには昔からヘレナの本性が見えていなかった。

 オカルト探偵ものの一篇というので期待せずに読み始めましたが、少なくともこの一篇にはオカルト探偵らしさは皆無でした。古今東西、甦った人間はもとの人間とはまったく違う存在だった……という話が多いなか、ある意味、死んでも本性は変わらないという話でした。
 

「ブックガイド 魔術基礎講座のサブテキスト7冊」牧原勝志訳
 ユイスマン『彼方』やマッケン『白魔』など。
 

「ぜんまい迷」勝山海百合(2016)★★★★☆
 ――科挙の試験に落ちたあと遊びほうけていた郭雋韻《かく・しゅんいん》は、届け物を頼まれた先で、美しい女に目を奪われた。この家の娘かと思い声をかけようとするが、傍らの少女に止められた。

 書き下ろし。甦り魔術の作品ばかりが続くなかで、こういう変化球があると嬉しい。「禁断の選択」の父親も引用していたアーサー・C・クラークの言葉にもあるとおり、「高度な技術は、魔術と区別がつかない」のです。
 

「名古屋SFシンポジウム2016 イベントレポート」小笠原じいや

「夢追う者」アレイスター・クロウリー/森沢くみ子訳(The Dream Circean,Aleister Crowley,1909)★★★★☆
 ――キャバレー〈ラパン・アジル〉にいた老人は「キャトル・ヴァン通りの幽霊」と呼ばれていた。若いころにキャトル・ヴァン通りにいた美女を救ったものの、二度とその家にはたどり着けず、さまよい歩いているからだという。

 地図にない町を描いた作品は多々ありますが、もともと行けなかったところに、魔術師の誓いによって往き来に制限がかかっているという二段構えです。
 

「怪奇サボテン男」デイヴィッド・コニアース/甲斐呈二訳(Cactus,David Conyers,2008)★★★★★
 ――モリーという女にそそのかされてボスのヘロインを横領したリッキーは、ボスのスナイダーに見つかり魔術でサボテンに変えられてしまい、撃たれても切られても死ねない身体になってしまった。

 邦題からはB級臭が漂っていますが何のその、開き直った異能ドンパチ・ノワールが意外なほど面白い。風太郎の忍法帖からドロドロした部分を消し去ってカラッとさせたようなところがあります。
 

「H・P・ラヴクラフトと魔術的な他者――「レッド・フックの恐怖」とThe Stranger from Kurdistanをつなぐ磁場」岡和田晃

「受胎儀礼」グリン・オーウェン・バーラス/植草昌実訳(Fertility Rites,Grynn Owen Barrass,2012)★★★☆☆
 ――コンスタンスが眠っていると、シーツ越しに優しく触れる手が、股間に届く。彼女は悦びの声をあげた。罪を犯してしまった。両手を広げた蹄のある女性の裸像を、ミューズ牧師から渡された日からのことだった。

 ダンウィッチという単語こそ出てくるものの、クトゥルーもの特有の雰囲気はなく、ありきたりの悪魔崇拝の、崇拝対象がクトゥルーであるというような作品でした。そのぶん読みやすい、というのはあります。
 

「魔術ホラー未邦訳作バラエティ」植草昌実

「見過ごしの呪文」ニール・ゲイマン/牧原勝志訳(An Invocation of Incuriosity,Neil Gaiman,2015)★★★☆☆
 ――フロリダのフリーマーケットで奇妙な動物の彫像を売っている男がいた。かつてこことは別の世界で、生まれる百万年前にファーファルと呼ばれていた男には、バルタザールという父親がいた。

 ニール・ゲイマン連続掲載企画三作目。
 

  


防犯カメラ