「踊るジョーカー」★★★☆☆
――ひきこもりで寝癖が直らない名探偵・音野順のために、私・推理作家の白瀬白夜は名探偵事務所を用意した。名探偵らしく「謎はすべて解けた!」とぶちまけてほしいところだが、気が弱くていけない。最初の事件はトランプまみれの密室で見つかった刺殺体だった。
ところどころにくすぐりが入っていますが、「馬車道の探偵だったら」というのはもしかしたらヒントだったのかもしれません。用いられているトリックが『斜め屋敷』を特殊な建築ではなく改良したバリエーションと考えられなくもないですから。
「時間泥棒」★★★★☆
――上野姉弟の屋敷から価値のない時計ばかりが盗まれる事件が起こった。その一方で盗まれない時計も存在する。犯人の目的はいったい何なのか――。
金銭的価値でも時間でもない時計の特性とは――。事件の見え方が面白くはありますが、時計のそこに問題があるからといって、そこまでするのはいかにも作り物めいています。「赤毛連盟」のような洒落っ気ではなく結果的にそういう見え方になっただけというのが物足りなくはあります。
「見えないダイイング・メッセージ」★★★★☆
――発明家の笹川明夫が殺された。金庫が目的だったのか。薄れゆく意識のなか、金庫の番号を誰かに残そうと笹川は力を振りしぼった。ポラロイドカメラを手にとり、シャッターを押した。
ここまで三作とも、ものを見る角度を変えることによって真相が導き出されています。ポラロイドにはどういう意味があるのか。ポラロイドカメラという機械に対する先入観を利用した作品であり、また被害者目線に立ったダイイング・メッセージという点にも着目できます。
「毒入りバレンタイン・チョコ」★★★☆☆
――心理学ゼミの学生たちが自作したバレンタイン・チョコを口にして、作った学生の一人・栄子が倒れた。命に別状はなかったものの、青酸化合物が検出された。チョコはゼミ生の誰もが口にしていた。これは無差別殺人なのか――。
トリックも直感的にはわかりづらい(図解されています)のですが、それに輪をかけて動機が推測しがたいため、謎解きはもちろん、真相が明らかになったあともすっきりしません。前作にも兄という名探偵のライバルが登場しましたが、本篇にも、ライバルというよりは漫才トリオの一人であった岩飛警部とは別に、高庭警視というライバルが登場します。
「ゆきだるまが殺しにやってくる」★★★☆☆
――事件を解決して帰宅途中に道に迷った先で、たどり着いたお屋敷はゆきだるまだらけだった。一人娘の美子が、自分の目に叶ったゆきだるまの作り手と結婚すると条件をつけたためだ。やがて求婚者の一人が死体で見つかり、かたわらにはバールを腕にされたゆきだるまが……。
動機といいトリックといい、音野たちのかけあい以外のところでギャグ色の強い作品です。そうはいいつつ、殺人を犯すタイミングにこだわり完全犯罪を狙っているなど、細部については考え抜かれていました。
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