『瓦斯灯』連城三紀彦(講談社文庫)

 ミステリマガジン700号の書評で「復刊不能ともいわれる」と書かれてあったので興味を惹かれたのですが、どうやらそれは本書収録の「親愛なるエス君へ」を指しているらしく、それなら『綾辻行人有栖川有栖のミステリ・ジョッキー2』で既に読んでいました。
 

「瓦斯灯」★★★☆☆
 ――峯は父がなくした二百円の肩代わりに質屋に嫁いだ。亭主の佳助が酔った挙句に博徒を殺めて監獄に入ってからは、娘の千代を抱えて針一本で身を立てている。人情の篤い故郷に戻って夫の帰りを待つことにしたが、結婚を約束していた安さんを裏切った形になっていただけに、それだけが心苦しい。それでも昔のように接してくれる安さんを見て、夫と別れてやり直そうと考えるが……。

 女心も男心も身勝手で利己的なものです。峯は身勝手な願望や思い込みのままにころころ心変わりをする女です。勝手に犯人扱いして勝手に許すなんて、自己満足もはなはだしい。男は男で、物言わぬのが美徳……がこじれて、勝手にいじけてる始末です。結果的に起こったのは、すれ違いのホームラン競争。ラストシーン、老いた身体で瓦斯灯を灯して走る姿が目に浮かぶようです。
 

「花衣の客」★★★☆☆
 ――「死に水をとってくれないか、その朧月で」板倉は紫津の母のものだった朧月を死ぬ前にもう一度見たいと、葉書を送ってきたのである。妻がありながら母と心中事件を起こし、一人助かった板倉を、紫津は幼いころから慕っていた。そうして紫津は、死んだ母との戦いを二十二年も続けていた。「先生は今も母を愛していらっしゃるのね。でも私は今日一緒に死ぬつもりで……」

 たった一つ、鶏が先か卵が先かの見方を変えるだけで、不倫相手の妻が年齢に不似合いな派手な着物を女に贈りつづける真意ががらりと変わります。不毛、であることに変わりはありませんが。
 

「炎」
 

「火箭」
 

「親愛なるエス君へ」
 ――親愛なるエス君。二年前、君がパリで犯した事件を新聞が報道した時、私は身震いを覚えた。私には君がこの世界で唯一無二の存在のように思えた。なぜなら、君が起こしたのと同じ事件を、この手で起こしたいというのが、六歳の時からの夢だったのだから。

 『綾辻行人有栖川有栖のミステリ・ジョッキー2』(→ここ)で既読。異常心理には慣れているミステリ読者でも裏をかかれる奇怪な動機と犯行です。

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