『ミステリマガジン』2017年11月号No.725【幻想と怪奇 ノベル×コミック×ムービー】

「一壜のペリエ水」イーディス・ウォートン/小林晋訳(A Bottle of Perrier,Edith Wharton1926)
 ――考古学アメリカン・スクール所属のメドフォードは、変わり者のイギリス人の友人アーモドハムに会いに砂漠を訪れたが、アーモドハムは不在だった。イギリス人召使いのゴズリングの制止も聞かず、メドフォードは帰ろうとするが……。

 いつまでも現れない主人、少しずつなくなってゆくらしい水、ワインや主人の帰りに執拗にこだわる召使い……主人公自身はいつでも砂漠からは出られるはずなのですが、その主人公を取り囲む環境が閉塞感を生み出していました。
 

「真夜中の名画坐通り」井上雅彦
 ――メラ君と私、そしてロミーの三人。子どもだったぼくたちは怪談映画の看板の前を通り続けた。(惹句より)

「少女精霊顕現」間瀬純子
 ――ここは“魔法少女特区”だよー! 勇気・友情・勝利・狂気・怪奇のマジカル・ストーリー♡(惹句より)

「腸詰工場の少女」高橋葉介

「ふくろねこ」オガツカヅオ
 ――自分たちの背中には目に見えない翼がある。そんな気がしてナオと同棲をはじめた。電信柱のてっぺんにぶらさげられた袋に入っていた猫の死骸を見つけて、弔ってあげたその日以来、僕たちは猫に呪われてしまった。

 「こくりまくり」のキメゴメさんが「キャゴメさん」としてゲスト出演。となるとキメゴメ=キャゴメ=カゴメ(りんたとさじ)というふうに繋がっているようです。それにしても翼を失くして地に足が着いたころに……というのが絶望感を煽ります。
 

「潤いの友達」阿部洋一

「かがいる」オカヤイヅミ

「その怪物は」佳嶋

「怪奇幻想音楽盤」

「〈幻想と怪奇〉映画」
 

「書評など」
『怒り』ジグムント・ミウォシェフスキは、ポーランドのミステリ。ケイト・モートン『湖畔荘』、ロバート・ルイス・スティーヴンスン&ロイド・オズボーン『引き潮』は説明不要でしょう。ポケミス『呼び出された男 スウェーデン・ミステリ傑作選』のような作品集が、隙間狙いの中小出版社ではなく早川書房のようなところから出る

◆ベストセラーのせいで「○○の品格」というタイトルは陳腐すぎて食指が動きませんが、『悪女の品格』辻堂ゆめは、「すれっからしのマニアが疑いそうな可能性について」「あっっさり明かして」しまい、「その暴露によって謎は逆に深まるばかり」という本格ミステリです。

帝都大捜査網』岡田秀文は、昭和十一年が舞台のミステリで、タイトルと著者名が地味ですが、「連続刺殺事件の被害者は、発見されるたびに刺し傷がなぜか一つずつ減っていった」という謎にはわくわくします。

『ジャック・グラス伝』アダム・ロバーツは、新ハヤカワSFシリーズの一冊。大森望の「これってメフィスト賞受賞作じゃないの?」という一言だけで面白そうです。

デヴィッド・リンチ自身によるツイン・ピークスの新作が製作されるというニュースを、大倉崇裕が熱く語っています。
 

「おやじの細腕新訳まくり(6)」田口俊

「出口なし」マイクル・コリンズ/田口俊樹訳(No Way Out,Michael Collins,1980)
 ――私立探偵と警備員が部屋を見張っているなか、警備員の一人が殺され、焼き切られた金庫からは宝石が消えていた。犯人はどこから侵入し、どうやって逃げたのか――。

 訳者のひとことでも、同時期発売の『本の雑誌』2017年10月号でも触れられているとおり、自分が訳した旧訳を忘れていたそうです。肌触りは私立探偵小説っぽいのにトリックはガチガチの不思議な作風です。
 

本の雑誌』2017年10月号【2017年、新訳の旅!】

「ちゃぶ台を返せばいいってもんじゃない!」田口俊樹×鴻巣友季子

「新訳プラス1」新保博久
 『シンデレラの罠』新訳版が出ていたんですね。

「おじさん二人組、翻訳講座に行く!」

「新刊めったくたガイド」
小川哲『ゲームの王国』は「SFにしておくのがもったいない」そうです。ほかにソビエト・ファンタスチカの歴史』ルスタム・カーツは、「ソ連SF史を概説する研究書――という体裁の小説」という設定だけで食いついてしまいます。『牛車で行こう! 平安貴族と乗り物文化』は気になってたんですよね。森谷明子『南風吹く』は、『春や春』の続編。澤田瞳子『腐れ梅』もちょっと気になります。

   


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