「紐育チーズケーキの謎」米澤穂信
――小佐内さんと小鳩くんは古城さんの通う中学校の文化祭に出かけ、ニューヨークチーズケーキを。キャンプファイアーに向かう小佐内さんに体格のいい男子学生がぶつかり転倒したのを見て、小鳩くんが駆けつけたものの小佐内さんの姿はなく、古城さんが言うには「先輩、拉致されたんです……」
vol.80「巴里マカロンの謎」に続く、小市民シリーズ第二作。どうやら新シリーズは国名都市名シリーズのようです。今回の謎は90秒ほどの間に消えたCDの隠し場所です。小佐内さんが咄嗟に隠したものを小鳩くんが探し出すという趣向が取られています。頭のいい人のメッセージを頭のいい人が解いているため、ダイイングメッセージもののような不自然さがありません。
「未知との遭遇」丹野文月
――亡くなった兄弟子の七笑亭朱紋は自力で移動できないほど体力が衰えていた。病院から出かけたがる朱紋を手助けした者が弟子の中にいるのではないか。朱紋の弟子を引き取ることと手助けした犯人を見つけ出すことを、紋蝶は師匠の紋鏡から頼まれた。
第14回ミステリーズ!新人賞優秀賞受賞作。落語人情ミステリというのはある種ひとつのジャンルになってしまっていると思うのですが、シリーズものではないからこそできる趣向という意味では、既成作家にはできない、新人賞ならではの作品ということもできます。
「プロメテウスの晩餐」オキシタケヒコ
――旅の途中クーデターのため動くに動けなくなってしまった青年の料理の腕を見込んで、現地に残り発掘調査を続けていたホセ老人は自分たちのキャンプに青年を案内した。ホセの講義に影響され、青年は人類の発祥に思いを馳せる。
第3回創元SF短編賞優秀賞受賞作。これをSFとする懐の広さよ。「モノリス」を変化のきっかけと捉え、ホセ老人が青年に示してみせる解釈は、飽くまで現実的です。敢えて既存のジャンル分けにするなら考古学ミステリと呼ぶのがしっくりきます。しかしそこには確かに(古い言葉ですが)センス・オブ・ワンダーがあるのも事実です。
「鞄図書館」40冊目(3)芳崎せいむ
本篇にはまったく書かれていませんが、目次には「最終回」とあり編集後記には「堂々のフィナーレ」とありました。しかしこれまで散々ゲーテの引用をしてきておいて、「ジョン」って……。
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