「桑港クッキーの謎」米澤穂信 ★★★☆☆
――事の始まりは新聞だ。その次の次の次くらいがクッキーだった。この街出身の美術家縞大我がサンフランシスコ・ビエンナーレの黒熊賞を受賞したそうだ。それからもぼくは縞大我の名前に遭遇することになった。名前を出したのは新聞部の堂島健吾だった。「縞大我の絵が学校に残っていたんだよ。小佐内の知恵を借りたいんだ」。見せられた絵はロシア人画家の模写だったが、問題なのはそれが展覧会に出展されていたことだ。
小市民を目指している二人が過去のいきさつから事件の解決を依頼されるのも皮肉ですが、ついうっかり解決してしまうというのが可笑しい作品でした。あそこで「あっ」と声をあげてしまう小佐内さんが可愛い。フォーチュンクッキーの特性と、芸術家が追い続ける一つのテーマから、真相が浮かび上がります。最後に明かされる人の悪意を最後にさらっとぶちまける小佐内さんの方が悪意よりも怖かったりします。『冬期限定』で終わってしまうかと思われたこのシリーズですが、『巴里マカロンの謎』に続いての新作ということで少なくとももう一冊は国名都市名シリーズは出してくれそうです。
……と思ったら、次号vol.105で終刊という告知が。ミステリに限らない文芸誌が夏には刊行予定なので、それに引き継がれるとは思いますが。
「間違った瓶」アントニイ・バークリー/白須清美訳
「必然の裁き」阿津川辰海
「バークリー『ウィッチフォード毒殺事件』を読む」若島正
『ボヴァリー夫人』が織り込まれているという指摘は若島氏ならではです。
「コージーボーイズ、あるいはありえざるアレルギーの謎」笛吹太郎 ★★☆☆☆
――カフェ《アンブル》では今月もまたコージーボーイズの集いが催されていた。毒殺ミステリという話題になり、漫画家の森田さんがナッツ・アレルギーを巡る実体験を話し始めた。喧嘩しているアシスタント二人の仲を和ませようとケーキを作ったものの反応はいまいちだった。森田さんが用事で職場を空けて戻ると、一人にアレルギー症状が出ていた。だがケーキにはナッツ類は使われていなかったし、ケーキ以外は口にしていないという。
アシスタント二人が男女だというのが中途半端なタイミングで明らかにされるため、真相はすぐにわかってしまいます。最初から明らかにするか、叙述トリックみたいにぎりぎりまで伏せるか、同性同士にするかすればまた違った印象だったと思います。
「嗜好機械の事件簿(22)Mの悲劇」喜国雅彦
MはマスクのM。コロナネタです。
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