『あいにくの雨で』麻耶雄嵩(集英社文庫)★★★★☆

 かなり以前に講談社文庫版で読んだときには、『翼ある闇』や『夏と冬の奏鳴曲』の派手さに隠れてまったく記憶に残っていませんでしたが、再刊を機に読み返してみたところ、充分ヘンテコでぶっとんでいました。

 高校三年生の如月烏兎《きさらぎ・うと》、熊野獅子丸《ゆや・ししまる》、香取祐今《かとり・うこん》は、廃墟となっているコンクリート製の“塔”でホームレスの死体を発見した。雪上には行きの足跡一本しかなく、当初は事故だと思われたが、殺人の疑いが浮上してきた。はからずも現場は、祐今の母親が殺された場所であった。警察は、偶然にも事件の日に「駈落ち」していた祐今の祖父を疑ったが、祖父の行方は以前として知れぬまま……。一方、烏兎と獅子丸は現生徒会長・有川から頼まれ、「調査室」の仕事に復帰することになった。クラブ活動の予算案が漏洩しているのだという。文系の有川派と対立する体育会系の清原に通じているスパイがいるらしい。二次調整のある今週末までにスパイを発見してほしい……。今は教師となっている矢的武志《やまと・たけし》に止められながらも、烏兎たちは調査活動と並行して密室殺人の謎をさぐるのだった……。

 冒頭でいきなり密室トリックが明らかにされます。文章では位置関係がわかりづらいものの、その直後に「第一」の殺人が描かれているので、注意深く読んでいれば著者の仕掛けに気づくことのできる(かもしれない)親切設計と言えます。

 烏兎は生徒会調査室の活動を「陣取りゲーム」だと考えていました。そうではなかったと悟って打ちのめされる烏兎でしたが、現実はさらに残酷なものでした。犯人にとっては烏兎が「ゲームではなかった」と考えたことすらゲームであり、密室殺人も謎解きもすべてゲームだったからです。生徒会調査室のパートには、その「黒幕」に読者の目を向けさせることで、殺人の黒幕にもミスリードさせる役割があると同時に、どちらも「ゲーム」で繋がっているという共通点もあったことに、真相を知った読者は気づくことになっています。

 この「ゲーム」という感覚はいかにも麻耶雄嵩という感じがしますし、「人は誰も自分が小説の主人公となりたがるが、実際は途中で退場する(させられる)脇役でもありうるのだ」という文章ともども、いかにも麻耶雄嵩という作品でした。

 『あいにくの雨で』というタイトルとは裏腹に、当日の天気が雪でなければ密室は構成されなかったことを考えれば、皮肉なものです。

 町に初雪が降った日、廃墟の塔で男が殺害された。雪の上に残された足跡は、塔に向かう一筋だけ。殺されたのは、発見者の高校生・祐今の父親だった。8年前に同じ塔で、離婚した妻を殺した疑いを持たれ、失踪していた。母も父も失った祐今を案じ、親友の烏兎と獅子丸は犯人を探し始める。そんな彼らをあざ笑うように、町では次の悲劇が起こり――。衝撃の真相が待ち受ける、青春本格ミステリ(カバーあらすじより)

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