『黒い破壊者 宇宙生命SF傑作選』中村融編(創元SF文庫)★★★★☆

「狩人よ、故郷に帰れ」リチャード・マッケナ/中村融(Hunter, Come Home,Richard Mackenna,1963)★★★★☆
 ――この惑星じゃ木は死にやしない。だから薪で火を熾すことができない。恐獣グレート・ラッセルを殺した者だけが、成人男子と見なされた。だが人口が爆発し、恐獣が足りなくなった。駆除用植物ザナシスを使って、このフィトの星を一掃し、恐獣を放し飼いにするはずだった。だが葉状生物《フィト》たちは死ななかった。

 一つの星の生物相を一変させてしまおうという傲慢、掛け違えた武士道みたいなおかしな美意識が横溢する先祖返りした男権社会。こんなでは、テロのようなものがあろうとなかろうと、結果は同じだったと思いますが、それはさておき。動植物とでもいうのかウイルスのようとでもいうのか、「主役」はフィトなる生命体で、人間の手に負えるようなものではありませんでした。かなり面白い作品なのですが、最後は何でもかんでも「愛」になってしまうところに微苦笑でした。
 

「おじいちゃん」ジェイムズ・H・シュミッツ/中村融(Granpa,James H. Schmitz,1955)★★★★☆
 ――筏とはある種の植物動物だ。つばの広い円錐形帽子が浮かんでいるようで、色は緑で、革でできているような感じ。あるいは灰緑色のパイナップル上半分を生やしている睡蓮の葉だろうか。沼地を移動するさい、輸送手段として使えた。評議員を案内するためばかでかい筏〈おじいちゃん〉のところまで行くと、見慣れない芽が出ていた――。

 改めて考えてみれば、植物にしろ動物にしろ、繁殖期があって当然なのですが、そんな宇宙の生命体のことよりも、囚われていずれ死が訪れるのを待つしかない状況の人間を前に麻酔銃を持ったまま何もできずに時間だけが過ぎてゆく状況に息が詰まりました。
 

「キリエ」ポール・アンダースン浅倉久志(Kyrie,Poul Anderson,1968)★★★☆☆
 ――大鴉号は、超新星の最近辺へ向かって、最後のジャンプの準備をととのえた。ミュータントであるエロイーズだけが生きている渦であるルシファーと心を通じることができた。「われわれが研究しようとしているこの質量は、あまりにも濃密なので、どんな力も重力を超えられない。理論的には体積ゼロになるまで収縮して消失してしまう。しかも重力のせいで時間の進行が遅くなるんだ」

 ブラックホールという言葉以前にブラックホール現象を扱った作品で、内容のスケールと比べて作品は短いのですが、理論とドラマを詰め込んだ先には、あまりにも残酷な結末が待ち受けていました。
 

「妖精の棲む樹」ロバート・F・ヤング/深町眞理子(To Fell a Tree,Robert F. Young,1959)

 あまり好きではない作家なのでパス。
 

「海への贈り物」ジャック・ヴァンス浅倉久志(The Gift of Gab,Jack Vance,1955)★★★☆☆
 ――姿を消したレイトをさがしていたフレッチャーは、甲板の上に白いロープがあることに気づいた。次の瞬間ロープが足首に巻きつき、舷側へと引きずられていた。正体を調べてみようと照会してみると、デカブラックに関する記述が削除されていた。養殖鉱業の前任者クリスタルに問い合わせたが、はぐらかされてしまった。フレッチャーはみずから海に潜り確かめてみることに……。

 作品自体は非常に面白いものの、クリスタルとフレッチャーの態度には、デカブラックを知能のない動物として扱うか知能のある未開人として扱うかの違いしかないように感じられて、あまり乗り切れませんでした。信号をわざわざ表にするヴァンスがお茶目です。
 

「黒い破壊者」A・E・ヴァン・ヴォークト中村融(Black Destroyer,A. E. Van Vogt,1939)★★★★★
 ――ケアルは巨大な前脚をぴたりと止めた。遠方から光が現れ出て降下してくる。巻きひげ状の耳が、膨大な量の特殊原形質《イド》の存在を伝えて小刻みに震えた。ケアルは見慣れない二本脚の生き物に目を凝らした。グループのなかでいちばん小柄な者が、ピカピカ光る金属棒をかまえた。

 掉尾を飾るのは『宇宙船ビーグル号』の一部の初出ヴァージョン。猫のような外見にほぼ無敵とも言えるケアル自身の魅力もさることながら、何といってもエイリアンVS人類の構図にわくわくしました。

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