『白い僧院の殺人』カーター・ディクスン/高沢治訳(創元推理文庫)★★☆☆☆

『白い僧院の殺人』カーター・ディクスン/高沢治訳(創元推理文庫

 『The White Priory Murders』Carter Dickson,1934年。

 新訳を機に再読しました。

 カー/ディクスンの作品には、トリックだけは覚えているものも多いのですが、本書もそのひとつでした。

 そしてどちらかというと、トリックだけ、の作品でもありました。

 とあるお屋敷の別館での雪密室という設定ゆえ、あまり物語に動きがないんですよね。殺人を自白した遺書や、被害者との関係の告白など、章ごとに盛り上げようという意気込みは感じるのですが、いかんせん登場人物に魅力がなく、何が起こっても平板なのは否めません。せめて被害者の女優の肖像が浮かび上がってくるような描写があればまだ違っていたのかな、と思います。

 原題が複数形であるように、第二の殺人も起こるのですが、直後に解決編になることもありあまり印象に残りません。

 やはり年を取ってくると、『黒死荘』や『白い僧院』のようなトリックオンリーの作品よりも、『曲がった蝶番』や『貴婦人として死す』のようなドラマ性のある作品の方に好みが移ってしまいますね。

 雪密室の古典に相応しく、極めて古典的なトリックが用いられているのですが、トリックをわかっていても感心してしまいました。あまりにも単純なことが真相とともにくるっと変わって見えるという、こういう書き方がやはりカーは抜群に上手いと思います。雪密室自体は結果的なものではありますが、その結果をもたらしてしまうある行動【※ネタバレ*1】に必然性があるため、説得力も充分です。

 渡英した女優マーシャ・テイトをめぐり、契約が残っていると連れ戻しに来たハリウッドの関係者、ロンドンでマーシャ主演の芝居を企画するブーン兄弟、芝居ばかりか私生活の後援もしかねない新聞社主らが不穏な空気を醸し出す。その不穏さを実証するように、スチュアート朝の雰囲気に浸るべく訪れたブーン家所有の屋敷〈白い僧院〉の別館で、マーシャは無惨な骸と化していた……。(カバーあらすじ)

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*1 犯人以外の人物が罪を逃れるために死体を移動させる

 


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