「私の一冊」酉島伝法
ハル・クレメント『20億の針』。
「対談 辻真先×米澤穂信 最新作『深夜の博覧会』&『王とサーカス』文庫化記念」
期待したほどつっこんだ話はありませんでした。
「真ん中の名前」奥田亜希子
――イラストレーターの白井真澄は本名で活動していた。女性と間違われることも多かったが、ペンネームを使う気はなかった。専門学校を卒業して五年、掛け持ちしている書店のアルバイトも気に入っていたが、同業者から「プロ意識に欠ける」と言われてショックを受けた。もうすぐ勤労感謝の日だ。同居している両親の恵さんと寛さんから、親を労いたいなら父の日や母の日ではなく勤労感謝の日にしてほしいと言われていた。五歳下の妹とプレゼントの相談をする。
すばる文学賞受賞作家。一応はミステリ的な仕掛けが施されていますが、中心はそこではありませんし、その仕掛けから導かれる或る社会的な問題でもありません。そこからさらに進んだ「中途半端」に対する主人公の決意こそが肝なのでしょう。
「願い笹」戸田義長
――吉原・丸屋の妻お千は決意した。亭主の富蔵が白犬様とかいう奇妙な神を信心して丸屋は火の車だ。富蔵を殺して、同心の戸田惣左衛門に罪を着せよう。詐欺師を追って丸屋に来て以来、花魁の牡丹のところに通っているあの男なら丁度いい。惣左衛門は屏風に囲まれた場所で神に祈る富蔵の用心棒を依頼された。
本作を含む連作集『恋牡丹』で鮎川賞候補に。古くさい物理トリックを、幕末の日本で西洋にかぶれた狂信者という特殊な設定と七夕という時期で可能たらしめていて、屁理屈や説教臭さのない明快なミステリでした。
「エヌ氏」渡邊利道
――私は人を待っている。仮にエヌ氏としておこうか。世界中の人がエヌ氏を知っているはずだが、同時に誰も「知って」いない。エヌ氏はかつて母の恋人だった。捨てられると考えて錯乱した母が家に火を放ち、女中たちを巻き添えにしたと信じられていた。隕石群の落下によって壊滅した地球上に残された森は、代々母親の家系が所有していた土地だった。事件後、その森をエヌ氏が自己の所有にしていた。
第三回創元SF短編賞飛浩隆賞受賞作。宇宙から飛来した《種》を利用してシミュレーションを繰り返す、誰でもあり誰でもない神の如き存在が登場します。星新一が発明したエヌ氏という呼称は、誰でもあり誰でもない人物にはまさにぴったりの呼び名でした。