『福家警部補の報告』大倉崇裕(創元推理文庫)★★★★★

 福家警部補シリーズ第三集。

「禁断の筋書」(2010,2011)★★★★☆
 ――漫画化を目指していた真理子とみどりだったが、デビューできたのはみどりだけだった。やがて真理子は編集者となり、みどりを潰すことだけを目指していた。真理子の部屋でそのことを聞かされたみどりは、思わず文鎮で殴っていた。みどりは倒れて動かない真理子を浴室に運び、足を怪我している真理子が追い焚き中に足を滑らせたように見せかけた。

 こうしたコロンボタイプのミステリで、犯人が余計なことをしてしまったがために犯行が露呈することほど興醒めなものはありません。冒頭の犯行部分で描写されるサイン本の書き直しは、その点で余計な賭けだと思われたのですが、実はプロの技という揺るぎない技術に裏打ちされた偽装であったことがのちにわかるという、ひねりを加えたものになっています。また、ペンの位置と利き手というどうとでも取れそうな手がかりを、ペンの向きや宅配便などで補強して突き詰めてゆくロジックも見事でした。
 

「少女の沈黙」(2011)★★★★★
 ――死に際の先代からあとを託された菅原は、栗山組を解散させ、十三人の組員が堅気になる世話もした……はずだった。だが堅気になれなかった金沢から電話がかかってきた。元組員の次郎が先代の息子である邦孝の娘・比奈を人質に取り、飯森組への特攻を迫っているという。菅原は金沢に協力させ、次郎を殺す決意をする。金沢の仲立ちで次郎の潜伏先を訪ねた菅原は、隙を見て次郎を刺す。そして……麻薬販売に手を染めた金沢のことも許せなかった。

 ヤクザを美化しすぎているところが気にはなるものの、質量ともに本書で一、二を争う作品です。本作品の犯人・菅原は元ヤクザである手前、噂でとはいえ福家のことを知っていました。そして商売柄、人を見極める力もあるのでしょう。そのためか、福家には敵わないことを悟り、「およそ勝ち目のない戦いだ。だが、負けるわけにはいかない」(p.245)と覚悟を決めています。こうした決意というのがまた、浪花節の流れているこの作品とぴったりマッチしているところも泣かせます。菅原も明確なミスは犯していないのですが、優しさゆえに警察に怪しまれるような行動を敢えて取ってしまうような人間なのです。さらには誘拐された比奈や元組員、果ては敵対する飯森組までが義理人情に厚いのが、浪花節浪花節たるゆえんです。優しさゆえの自覚的な〈ミス〉は別として、被害者の〈義理〉が福家の疑惑を招くという構成も、皮肉な巡り合わせでしょう。決定打となる手がかりも、哀しいくらいにおセンチでありながら、さり気ない伏線が見事に決まっていました。
 

「女神の微笑」(2012)★★★★★
 ――後藤は杖にすがるような歩き方をやめた。男が工具箱を足許に置き、公衆電話の受話器をつかんだところに倒れ込んで、用意しておいた工具箱とすり替えた。男はすり替えに気づかず電話に戻り、やがて道ばたに停めてあるワンボックスカーに乗り込んだ。後藤は周囲に人のいないことを確かめてから、杖に仕込んだボタンを押した。ワンボックスの内部で爆発が起こった……。車内で死んだ男三人は銀行強盗未遂の手配犯だった。次の犯行に向かう途中の誤爆だと思われた。だが停車場所が銀行から遠回りになることに福家は疑問を抱いた。

 第一話では衝動的な犯人、第二話では覚悟を決めた犯人、そしていよいよこの最終話では職業的犯罪者との全面対決が描かれています。いま「職業的」と書きましたが、それは常習的という意味合いであって、実際には「趣味的」というべき存在です。だから福家との対決も、どこか遊びめいた余裕と楽しさが感じられました。初顔合わせの時点で、些細な疑問から推理を働かせて容疑者を突き止める福家に対し、容疑者はその福家の推理の過程を追うことで福家が自分にたどり着いた理由を推しはかることのできる頭脳の持ち主でもあります。これまで福家の推理の過程ははっきり描かれていませんでしたが、この犯人によって、福家の行動には単なる勘ではなく明確な理由があることが改めて明らかにされました。なかんずく鮮やかだったのが、強盗グループの犯行を事前に知ることのできた状況から、犯人の条件を絞り込む場面です。犯人側のミスと言えばミスなのですが、不幸な偶然と言えなくもない穴を、福家は見逃しませんでした。

  


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