『気球に乗って五週間』ジュール・ヴェルヌ/手塚伸一訳(集英社文庫)★★★☆☆

 『Cinq semaines en ballon: voyage de découvertes en afrique par trois anglais』Jules Verne,1863年

 記念すべき驚異の旅シリーズ第一作です。

 果敢な冒険に沸き立つ人々と、無謀だと反対する友人。冒頭からすでに後年のヴェルヌらしさが見られます。

 いかにして砂袋を捨てたりガスを抜いたりせずに高度を変えるか。科学に関してはこのくらいで、だいたいにおいて科学小説ではなく冒険ものです。

 その冒険なのですが、なにしろ気球旅行ですから、基本的に空の上で、ときどき地上に降りては、猿に襲われて銃を撃ったり、原住民に丸いバルーンを月の神様だと思われて崇められたり、象に引っかかって銃で撃ったり、人食い人種同士の戦いに遭遇して銃で撃ったり……冒険というよりは観光、サファリパーク、何かあっても銃があれば大丈夫!といった感じで、単調で平板なのは否めません。

 いよいよ本格的に冒険ものになってくるのは中盤過ぎからです。水がなくなったり、ひげ鷲に襲われてバルーンに穴が空いたり、安全な気球から一人だけ離れてしまったり、高く飛べない状況のなかでアフリカの部族に襲われたり……ようやく面白くなってきましたが、一番のクライマックスは、使用人ジョーによる尾根走りでした。少年漫画の主人公みたいで、笑えるほどにスカッとしました。

 1862年、自ら発明したマンモス気球を駆って、“暗黒大陸”アフリカを探検しようとした勇敢な男たちがいた。ザンジバル島より駆け発ったファーガソンら一行のめざすは、「地図上の空白地」ナイルの源流。彼らの前には、驚異にみちた未知なる新世界が待っていた……全世界を熱狂させ、ヴェルヌを一躍、流行作家に押し上げた〈驚異の旅〉シリーズ第一作、待望の文庫化。(カバーあらすじ)
 

  


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