『黒いダイヤモンド』ジュール・ヴェルヌ/新庄嘉章訳(文遊社)★★★☆☆

 『Les Indes noires』Jules Verne,1877年。

 かつて〈黒いインド〉と呼ばれ炭坑町として栄えた、スコットランド地方。そんな炭鉱町のひとつアーバーフォイルでは十年前に石炭を掘り尽くし、今では廃坑となっていた。ところが技師のジェームズ・スターの許に、今でも炭坑に暮らしている元坑夫サイモン・フォードから手紙が届く。『重大な話があるのでお越し下さい』。ところがその直後に、『来るな』という無署名の警告が――。却って興味を惹かれたスターは、サイモンの招きに応じてアーバーフォイルに出かけた。サイモンの息子ハリーが出迎えてくれた。サイモンの用件は、新しい鉱脈を発見したという話だった。さっそくスターたちは炭坑に降りて調査を始める。ところが、どこかから石が落とされ、ランプの火が消され、暗闇のなか手探りで入口に戻ったものの、あるはずの場所に入口はなくなっていた……。

 地下の洞窟というと、名作『地底旅行』を連想してしまいますし、新しい鉱脈を確かめに行くところまでは確かに、そうした探検冒険ものの趣があるのですが、全体としてはどちらかといえばサスペンス小説とロマンス小説の味がまさっていたと思います。

 姿を見せない敵の正体と目的とは? そもそも敵なのか味方なのか? それ以前に人間なのか人ならざるものなのか? こうした謎の真相は、しかしながらお世辞にも満足のいくものではありませんでした。

 そうはいっても、新しい鉱脈の洞窟が発見されるまでは洞窟を発見されないための邪魔、発見されてからは娘が嫁に取られないための邪魔――と、前半と後半でほとんど別の話からなる二つの物語を、狂人が守りたいものによって一つの物語につなぎあわせたのは、ヴェルヌの物語作りの上手さのしからしめるところでしょう。

 今も炭坑で暮らす根っからの炭坑夫一家、幼いころに攫われて陽の光を見たことのない美少女、それを守るように寄り添う大白梟、など、人の心をくすぐるキャラクターにもすぐれていました。
 

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