『黄昏の彼女たち(上)』サラ・ウォーターズ/中村有希訳(創元推理文庫)★★★★☆

 『The Paying Guests』Sarah Waters,2014年。

 現代に差し掛かろうかという時代、斜陽階級のレイ母娘が屋敷に下宿人を置くことから物語は始まります。いわばお嬢様から見た庶民、古い時代から見た婦人参政権などが生まれた新しい時代、そうした通常とは異なる視点から見てみると、家事手伝いのような平凡な境遇も、ずいぶんと面白いものに感じられてきます。

 下宿人のバーバー夫婦のうち、夫レンからは色目を使われ、妻リリアンとは仲良くなれそうになったところで、フランシス・レイに最初の問題がふりかかります。これもある意味、新しい時代、を表す記号の一つと言えるのかもしれません。

 問題かと思われた出来事も無事に雨降って地固まり、蜜月のロマンスが始まったかと思われましたが……。

 下宿人のレン・バーバーが何者かに襲われるという事件も起こるものの、それ以上に不穏なのが、二人の恋のゆくえです。幸せなのは最初だけ、途中からは苦しみのほうが勝っているというのはよくあることですが、二人の場合は初めから障害が多すぎて、うまくいきっこないのですから。

 1922年、ロンドン近郊。戦争とその後の混乱で兄弟と父を喪い、広い屋敷に母とふたりで暮らすフランシスは生計のため下宿人を置くことにする。募集に応じたのはレナードとリリアンのバーバー夫妻だった。ふとしたきっかけから、フランシスは自分よりも年下のリリアンとの交流を深めていくのだが……。心理の綾を丹念に描いて読む者を陶酔させる、ウォーターズの最新傑作ミステリ。(カバーあらすじ)
 

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