『象牙色の嘲笑 新訳版』ロス・マクドナルド/小鷹信光・松下祥子訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★☆☆

 『The Ivory Grin』Ross Macdonald,1952年。

 なるほど詩的表現といっても、チャンドラーのようなインテリ嫌味なところを楽しむような意地の悪い面白さではなく、修辞技法がすっと溶け込んでいるので、読んでいて引っかかりを覚えることがありません。それが物足りないといえば物足りない。

 象徴的なタイトルと、事件の真相が、ぱっと浮かび上がる構成にはうならされたものの、最後になって出てくる犯人の一人の「人間らしさ」はいささか唐突に感じられ、せっかくのきれいな構図が台無しになってしまったと感じます。主要な登場人物たちのうちで死なせてはもらえなかった人間らしい惨めさが滲み出ているといえばいえますが。

 それと比べればやはり女性キャラに魅力がありました。利己的にひらひらと立場を変えて翻弄した、ベスの、決して魅力的とは言えない悪女ぶりが光ります。

 私立探偵リュウ・アーチャーは怪しげな人物からの依頼で、失踪した女を捜しはじめた。ほどなくその女が喉を切り裂かれて殺されているのを発見する。現場には富豪の青年が消息を絶ったことを報じる新聞記事が残されていた。二つの事件に関連はあるのか? 全容を解明すべく立ち上がったアーチャーの行く先には恐ろしい暗黒が待ち受けていた……。錯綜する人間の愛憎から浮かび上がる衝撃の結末。巨匠の初期代表作、新訳版。(カバーあらすじ)
 

  


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