『躯体上の翼』結城充考(創元SF文庫)★★★★☆

 『Wings of the Bones』2013年。

 たった一人で、戦艦を含む百隻以上の飛行艦に戦いを挑む――。これだけ聞けば荒唐無稽としか思えません。こんな無謀な戦いが成り立っているのは、敵側が戦闘をまったく想定していないというのもあるでしょう。外部から据え置かれた指揮系統を活かす手足が存在しないため、いくら道仕の頭が回ろうとも、戦闘力で衞仕たちに勝る員《エン》には充分な勝ち目がありました。

 そして実に、物語のほとんどは、そうした戦闘に費やされているのです。最初から最後まで、ただただ、戦うだけ。それだけの描写力と構成力があるわけです。知恵と能力を駆使して戦い続ける員に、安全な立場から員の作戦を読んで対抗しようとする道仕、このアクションVS戦術という対比の構図があるから、戦闘ばかりでも単調にならないのでしょう。

 その大きな二つの視点に、居合わせた者たちの視点がときどき差し挟まれます。通過儀礼のようなもののために対狗衞仕を仕留めに来た少年たち。彼らが目撃した員の出撃シーンは、本筋にはさして関係がないのに、本書のなかでもかなり印象に残る場面でした。冷凍仕である磊《コイシ》もまったく重要とは言えない人物ですし、計算仕や通信仕にいたっては名前すら明らかではないというのに、誰もが記憶に残る人たちでした。伏線のような役割を果たしているパートの主役・清《セイ》が、途中までは正体が明らかではないのもいいですね。

 〈共和国〉の緑化政策船団の護衛のため、航空上の脅威となる人狗《ヒトイヌ》に対抗する生体兵器として生み出された対狗衞仕《たいくえいし》の員《エン》。数百年を戦いと孤独のうちに費やした彼女は、情報の涸れ果てた互聯網《ネット》上を彷徨う中で、cyと名乗る人物に呼びかけられる。豊かな知識を所有する彼との対話に喜びを見出す員。だが、共和国が散布する細菌兵器の脅威が、cyに迫っていた。硬質な叙情に満ちた本格SF。(カバーあらすじ)
 

  


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