『リボルバー・リリー』長浦京(講談社文庫)★★★★☆

リボルバー・リリー』長浦京(講談社文庫)

 2016年刊行。

 大正時代の日本を舞台に、幣原機関でスパイとして育てられた女性が陸軍横領犯の息子を守るために、陸軍とヤクザと幣原の後輩を相手にひたすら格闘と銃撃戦を繰り広げる物語です。

 文庫にして640ページとかなり長い作品にもかかわらず、心理描写や風景描写は必要最小限に抑えられ、とにかくアクション中心でストーリーが進んでゆくので、一気読み必至です。

 戦い方も多彩で、百合はチンピラ程度ならリボルバー一つで四人をあっさり打ちのめしたかと思えば、拳銃なしでタイマンもするし、罠を仕掛ける省エネ戦もできるし、カーチェイスや火事場からの脱出もありました。それでも百合は無敵ではありません。けっこう血を流しますし、不意を突かれたり騙されたり、大きな傷も負っています。

 それでも百合も軍人たちも職業柄でしょうか、いざ戦闘が始まれば、死が身近であるにもかかわらず悲愴感はあまり感じられません。だからどれだけひどい暴力があろうとも、さほど嫌悪感を持たずに読むことができます。

 ただ、やはり長過ぎると感じました。特に終盤、本格的に軍隊が出て来てからの荒唐無稽さにはさすがに食傷気味でした。そもそも兵士という存在の本質が命令に従うだけのただの駒なのでしょう。そんな駒が大量に出て来たところで、ただただ駒を機械的に倒すのが続くだけなので、アクションとしても単調でドラマ性もありません。

 津山大尉という実行部隊のトップとの戦いがピークで、それより上のラスボスとなると直接対決するわけにもいかず、尻すぼみ感が残りました。

 ちなみに作中では百合はリボルバー・リリーとは呼ばれていません。

 小曾根百合《おぞね・ゆり》――幣原機関で訓練を受け、東アジアなどで三年間に五十人超の殺害に関与した冷徹非情な美しき謀報員。「リボルバー・リリー」と呼ばれた彼女は、消えた陸軍資金の鍵を握る少年・細見慎太と出会い、陸軍の精鋭から追われる。大震災後の東京を生き抜く逃避行の行方は? 息をもつかせぬ大藪春彦賞受賞作。(カバーあらすじ)

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