『The Problem of the Green Capsule』John Dickson Carr,1939年。
目撃者の証言の信憑性を題材にした作品で、人間の目が信用できないと主張する素人心理学者がそのテストの寸劇の最中に毒殺されてしまうという事件が起こります。観客たちは騙されないようにと鵜の目鷹の目でいたのに、証言が食い違うという不思議な出来事が起こりますが、実はこれ、発案者が初めから観客を騙そうとしていたという、いわばズルです。そして映画撮影機《シネカメラ》という真実以外は映しようのない目撃物にさえ漂う違和感。ズルと現実との齟齬が真相を照らす鍵になっていました。決定的な場面にあのマザーグースを用いる著者のセンスが心憎い。派手なところはありませんが、見えているように思えたものがまったく違った意味を持ってくるという点で、ミステリらしさが直球で味わえる作品でした。
小さな町の菓子店の商品に、毒入りチョコレート・ボンボンがまぜられ、死者が出るという惨事が発生した。一方で村の実業家が、みずからが提案した心理学的なテストの寸劇の最中に殺害される。透明人間のような風体の人物に、青酸入りの緑のカプセルを飲ませられて――。食いちがう証言。事件を記録していた映画撮影機《シネカメラ》の謎。そしてフェル博士の毒殺講義。不朽の名作が新訳で登場。(カバーあらすじ)
[amazon で見る]