奇巌城。原作を何度読んでも面白さがわからなかったのですが、もう一度チャレンジしました。
結構面白かったです。
初期ボートルレのこまっしゃくれたところには目をつぶりました。ボートルレへの脅迫と殺人未遂は部下の勇み足ということでいいでしょう。中巻冒頭の直接対決――手を引けという脅迫だけはさすがにルパンがみっともないという思いは変わりませんでした。でもここ以外では記憶にあったほどルパンは小物っぽいみみっちい行動は取ってませんでした。
愛する女性と暮らすため引退してまっとうに生きるという決断も、(ルパンは何度も似たようなことを繰り返しているとはいえ)、ルパンらしくて納得できます。
ではルパンはどの時点から引退とボートルレへの引き渡しを決意していたのでしょうか。暗号があそこに落ちている必然性がないため、あの時点ではすでにボートルレを誘導していたと考えるのが自然でしょうか。となると中巻冒頭の直接対決も、すべてボートルレを焚きつけるための芝居の一部ということになるのでしょうか。ショームズとビクトワールだけが誤算だったようです。
ルパン・シリーズの初期に位置する作品ですが、森田氏のあとがきによれば「『怪盗紳士』としての活躍は実質的にこの作品でほぼ終わり」ということなので、本拠地を失ってもルパンのその後の活動にはさほど影響はないようです。
地味ながらルパンの詐欺師としての腕前が披露されていたのが印象的でした。どうしても「獄中のアルセーヌ・ルパン」や「塔のてっぺんで」のようなトリッキーなものに目が行ってしまいますが、本書で見られた帽子のすり替えや暗号文書のページ破りなどの早業に、職業泥棒集団らしさが現れていました。
そして『奇巌城』を読む際に避けて通れないショームズの扱いなのですが、ちゃんと情けなくないように描かれていました。
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