『IQ』ジョー・イデ/熊谷千寿訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★★☆

 『IQ』Joe Ide,2016年。

 IQと呼ばれる黒人青年。彼が探偵として活躍する2013年のパートと、17歳だった2005年のパートから成るミステリです。

 幼女誘拐犯視点のプロローグから、この犯人を追うシリアルキラーものだと思ったのは早計でした。ボートで逃げる犯人を追うカーチェイスと、グレネード・ランチャーで犯人を制圧するという、ぶっ飛んだつかみに過ぎませんでした。

 腐れ縁のドッドソンやデロンダとの再会から幕を開け、ピット・ブルに命を狙われるラッパーから殺し屋を突き止めるよう命じられます。化物級の犬という特殊な相手であるためわりとあっさり殺し屋にはたどり着きますが、頭のネジが外れた人がいくらでも登場するので、黒幕や内通者のことなど正直どうでもよいくらい濃いです。軽口ばかりで会話が進まない取り巻きたちのステレオタイプアメリカ人ぶりとか、ラッパー夫妻のどつきあいとか、バカばかりです。そんななか、主人公のIQだけは実はかなり真面目なので格好よさが引き立ちました。

 そんなIQの真面目さが際立つのが過去パートです。

 過去のパートでは、ドッドソンとの腐れ縁の始まりから探偵を始めるきっかけまでが描かれます。金が欲しくてギャングの抗争を引き起こして一切の罪悪感を感じていないというドッドソンや、兄を轢き逃げした犯人に対する消化しきれない思いという、IQを形成する下地が明らかにされていました。

 子どものころに読んだホームズ物語に著者が影響を受けているそうですが、この作品自体にはホームズ要素はほとんどありません。

 たぶん主人公が身を置いている世界には合っているのでしょうけれど、カバーイラストがとてつもなく格好悪いのはどうにかならなかったのでしょうか。

 ロサンゼルスに住む黒人青年アイゼイアは“IQ”と呼ばれる探偵だ。ある事情から大金が必要になった彼は腐れ縁の相棒の口利きで大物ラッパーから仕事を請け負うことに。だがそれは「謎の巨犬を使う殺し屋を探し出せ」という異様なものだった! 奇妙な事件の謎を全力で追うIQ。そんな彼が探偵として生きる契機となった凄絶な過去とは――。新たなる“シャーロック・ホームズ”の誕生と活躍を描く、新人賞三冠受賞作!(カバーあらすじ)

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