『Le Monde d'Arsène Lupin』Jacques Derouard,2003年。
アイテムや社会制度や風俗などに焦点を当てて、アルセーヌ・ルパン作品の時代背景を明らかにする副読本です。ルパン・シリーズに留まらず、ベル・エポックに関する資料集として役立ちそうです。日本でいえば鹿島茂氏の著作に近いでしょうか。ただし鹿島氏の著作が読んで面白いものだったのに対し、本書は読み物としては面白くありませんでした。作品のなかでの意味や時代背景と結びつけたりする考察が少なく、単なるルパン作品内容の羅列が目立ちました。図版がもっと欲しかったです。
まえがきやあとがきの類がないので、いまいちどういう種類の本なのかわからないまま読み進めなくてはならず、はじめはピンと来ませんでした。
まずはホームズの扱いが悪いのは当時の狂信的愛国主義のため、とか、ルパンものの歴史趣味、などが簡潔に触れられています。ここらへんは詳しく書こうとし始めるときりがなくなるのであっさりしているのは仕方のないところでしょうか。ルパンの新しもの好きがまとめられているのを読むと、ルパンのキャラクターや当時のことがおぼろげに浮かんできます。
恋は多いが友情は欠落している、とはなるほどもっともな指摘でした。
罵り言葉は翻訳ではまったく伝わらない部分なので、まとめられると新鮮でした。
ルパンの世界ではオーバーは物笑いの種というのは何なんでしょうね、そんなところに注目して読んだことなどありませんでしたが、読み返すときに気にしてみようと思います。
鞄の記述が少ないのは、つまりポケットに何でも入れているからだ、という指摘、これどこかで同じような指摘を見たような気がするのですが、思い出せません。ホームズ関係だったかな?
「ルパンの長所」によれば、ルパンの生涯は利益よりも損失の方が大きかったそうです。
ただルパン譚をなぞるだけの本書には珍しく、「古い貴族」の項では当時の公爵と神父のエピソードが紹介されていました。
同じく「下層階級の人たち」の項では、金持ちと貧乏人が同じ地区どころか同じ建物に住んでいることも珍しくなく、ただ住んでいる階数に違いがあったというのは面白い事実でした。
「新聞と新聞記者」の項。「赤い絹のショール」に出てくる「競馬グラフ」がスポーツ紙とは思えないというのは何かの皮肉なのでしょうけれどどういう意味なのかわかりません。
「警察は何をしていたか」には『水晶の栓』に出てくる「古い手錠《カブリオレ》」ですが、「《カブリオレ》と較べると、いまの手錠は大きな進歩を遂げたようだ」と書いてあるのだから、いまの手錠とどう違うのか、こういうのこそ図版が欲しいところです。「cabriolet」「menottes」で検索すると納得です。
ルパン譚のなかでシャンパンを飲むのは悪人だけだとか、ルパン譚には動物がほとんど登場しないとか、なるほどという指摘があります。
日本版には付録としてルパン略年表とルパン譚あらすじ収録。
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