『みんなの少年探偵団2』有栖川有栖他(ポプラ文庫)
「未来人F」有栖川有栖(2016)★★☆☆☆
――明智先生がアメリカに行っている間に、せっかく捕まえていた二十面相にだつごくされてしまいました。数日後、「未来人F」をなのる男がラジオにしゅつえんし、国宝を盗み出すことを予言したのです。
パスティーシュはよくできていたのに、「我々は小説の登場人物なのだ」をやって台無しに。未来へと読み継がれる乱歩作品の魅力を表現するにしてももっと工夫してほしい。また、二十面相のオリジナリティについての台詞も、乱歩への称讃というよりも他の執筆者のハードルを勝手に上げているみたいで不愉快でした。
「五十年後の物語」歌野晶午(2016)★★★☆☆
――それまで毛嫌いしていた岡田と仲良くなったきっかけは何だっただろう。告別式のあと、五十年前の思い出話に花が咲いた。岡田が黒ずくめの男についていくのを見て、少年探偵団の真似事をしていたぼくたちは、誘拐を阻止しようとしたのだ。だが助けられたはずの岡田は、敵の懐に入ろうとしていたのだから余計なことだったと反論した。
乱歩作品のパスティーシュではなく、少年探偵団に憧れていた元少年たち(六十一歳)の回想です。時代を超えた少年探偵団の魅力を表現する描き方は、有栖川氏よりもよほどスマートです。七代目小林芳雄という発想が少年探偵団マインドをくすぐります。
「闇からの予告状」大崎梢(2016)★★★★☆
――小春は学校帰りにおばあさまの家に向かいます。今日は特別な用事があるのでした。「所蔵されているロマノフの宝玉をちょうだいします。怪人二十面相」という予告状が届いたのです。二十面相というのは戦前戦後に世間をにぎわせた、ルパン三世のような泥棒でした。亡くなったおじいさまが知り合いから譲り受けた宝玉は、けれど鑑定の結果レプリカだという話でした。
現代を舞台に少年探偵団ものの文体で語られる、少女が主人公の物語です。宝物の隠し場所や発見方法は少年ものらしくささやかですが、原典とのリンクの仕方に原典への愛情が感じられます。有栖川氏や歌野氏の場合は読者の方から裏切られることを期待されているので、素直になれないというのはあるのでしょうけれど。
「うつろう宝石」坂木司(2018)★☆☆☆☆
――フランスの宝石職人がつくった『紅の涙』が二十面相に盗まれたのですが、手口の荒っぽさから模倣犯の仕業だと明智先生は言います。それにしても明智先生は最近よく座るようになりました。二十面相もまた、夜中の参上が減ってきたように思えるのです。
二十面相から見た明智や、二十面相と明智の対比や移り変わりなど、少年探偵団の世界に批評的な視点を持ち込んんだつもりなのかもしれませんが、取って付けたうえに焦点がとっちらかっていて読むに耐えません。
「溶解人間」平山夢明(2016)★☆☆☆☆
――悲鳴を聞いて屋敷に飛び込んだ小林少年が見たのは、蝋のように溶けた人間の姿でした。人体実験の結果、消化液があふれだしてやがて死んでしまう身体となった男が、博士に復讐にきたのです。
著者が著者なのでグロテスクですが、ギャグがことごとくつまらないので笑えませんでした。あるいは小林少年が被害者の足を引っ張るのは同じ乱歩の「赤い部屋」へのオマージュであったり、二十面相や明智の関わり方が馬鹿々々しいのはそもそも本家もそんなものだったりするのかもしれませんが。
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