『書架の探偵』ジーン・ウルフ/酒井昭伸訳(早川書房 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ5033)★★★★☆

『書架の探偵』ジーン・ウルフ酒井昭伸訳(早川書房 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ5033)

 『A Borrowed Man』Gene Wolfe,2015年。

 難解な作風で知られる著者のこと、覚悟して読み始めたのですが、ジーン・ウルフにしてはかなりわかりやすいエンターテインメントでした。

 作家の複生体《リクローン》を蔵書(蔵者)として図書館で所蔵している世界――。亡父が遺した本の秘密を知るため、コレット・コールドブルックは本の著者の蔵者E・A・スミスを十日間借りることにします。ところが調査を始めた二人は謎の男たちに襲われてしまいます。

 邦題が『書架の探偵』であるのもむべなるかな、まるで私立探偵小説でした。主人公はE・E・スミスを連想させる名前ですが、SF作家ではなくミステリ作家です。それで一人称が自著の主役のような「しかつめらしい」話し方、美女の依頼人(?)ときています。

 関係者の死、依頼人の失踪、警察による取り調べ、逃走、相棒との出会い……それがまさか途中からあんな突拍子もないことになるとは! 確かに伏線というか、そのものズバリのことを博士に説明させてはいましたが、ただの譬喩だと思うじゃないですか。

 しかも理由は地球の資源のためとかではなく、ただのお金儲けなんですよね……?【※ネタバレ*1

 著者のことゆえいくつかは謎のまま終わるのではないか(自分で考えなければならないのではないか)と危惧していたのですが、関係者の死の真相や、黒幕の正体まですべてすっきり解決されていました。関係者の死や依頼に至る過程は堂々たる私立探偵小説です。黒幕が小者すぎるのが何かもったいないですね。

 そもそもの本の秘密はSFでなければ有り得ないものでしたし、蔵者という発想も非凡で面白いのですが、蔵者という設定にあまり必然性が感じられなかったのですが……。

 よく見ると表紙が漫画イラストでした。ほんとSFはこういうのをやめてもらいたいです。

 図書館の書架に住まうE・A・スミスは、推理作家E・A・スミスの複生体《リクローン》である。生前のスミスの脳をスキャンし、作家の記憶や感情を備えた、図書館に収蔵されている“蔵者”なのだ。そのスミスのもとを、コレット・コールドブルックと名乗る令嬢が訪れる。父に続いて兄を亡くした彼女は、死の直前、兄にスミスの著作『火星の殺人』を手渡されたことから、この本が兄の不審死の鍵を握っていると考え、スミスを借り出したのだった。本に込められた謎とは? スミスは推理作家としての知識と記憶を頼りに、事件の調査を始めるが……。巨匠ウルフが贈る最新作にして、騙りに満ちたSFミステリ。(裏表紙あらすじ)

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*1 ワープ(?)して火星の鉱山資源(エメラルド)を地球でお金に換える。

 


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