『血の収穫』ダシール・ハメット/田口俊樹訳(創元推理文庫)★★★★☆

『血の収穫』ダシール・ハメット田口俊樹訳(創元推理文庫)★★★★☆

 『Red Harvest』Dashiell Hammett,1929年。

 ハメットの第一長篇として、また映画『用心棒』の元ネタとして知られる古典の新訳です。初読。

 映画『用心棒』のイメージから、有力者たちを対立させ抗争を引き起こして市《まち》の治安を取り戻すための主人公のヒロイックな活躍が描かれた作品だと思っていたのですが、その過程のいくつかの殺人事件で意外な犯人が描かれているなど、案外きちんと探偵していました。

 ハードボイルド文体ゆえに主人公の感情は最小限に抑えられているため、主人公が町を浄化しようとこだわるのが、殺された依頼人の依頼をまっとうするためなのか、正義を果たすためなのか、どういう理由なのか真意まではいまいちわかりません。仲間の探偵すらも不審を抱くほどで、完全に主人公のスタンドプレーなのですが、読者としても主人公を信じてついてゆくしかないんですよね。

 じめじめしているわけでも、露悪趣味なわけでも、スノッブでも自己愛的でもない、こういうからっとしているところが、ハメットのよいところです。

 市《まち》には四つの巨悪が存在しているのですが、前半で登場するのは賭博業者ウィスパーと警察署長ヌーナンの二者に絞られており、この辺りではまだ主人公の意図はわかるものの全体像はつかみづらく、小さな事件がちょこちょこ積み重なってゆきます。

 そうした状況が変わるのが、中盤を過ぎた「和平会談」からです。ここで主人公が一気に仕掛けます。なるほど機が熟すのを待っていたんですね。ある意味、悪です。市《まち》から悪を一掃するために、一つ二つの殺人が起きるのを待っていたわけですから。

 ここからは一気呵成――とならないのがもどかしい。正直なところ主人公自身が殺人容疑者にまでなるところは余計だと感じました。最終的にはその殺人がきっかけとなって悪人一掃が実現する【※リノに愛人を殺されたウィスパーが、ウィスパーが死んだという情報を確かめに来たリノと相打ちになる】とはいえ、主人公がアヘンで意識朦朧とするのも強引ですし寝起きに見た夢もどういう意味があるのかよくわかりません。殺人の動機もしょぼいですし【※四悪の一人の後継者リノがウィスパーの愛人ダイナに騙し討ちにされたと怯えて、逆上したダイナを返り討ちに】。何より謎が深まってさらに推進力が上がるというよりもむしろ動き出した物語が停滞してしまった感がありました。

 コンティネンタル探偵社調査員の私が、ある町の新聞社社長の依頼を受け現地に飛ぶと、当の社長が殺害されてしまった。ポイズンヴィル(毒の市)と呼ばれる町の浄化を望んだ息子の死に怒る、有力者である父親。彼が労働争議対策にギャングを雇ったことで、町に悪がはびこったのだが、今度は彼が私に悪の一掃を依頼する。ハードボイルドの始祖ハメットの長編第一作、新訳決定版!(カバーあらすじ)

  


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