『ミステリマガジン』2021年11月号No.749【機龍警察 白骨街道/ハヤカワ文庫JA総解説PART2】
予告されていた古畑任三郎特集は延期され、代わりに『機龍警察 白骨街道』特集に。予定変更が急だったためなのかどうか、本人のほかは作家や評論家ではなく書店員座談会やライターのエッセイで構成されていました。
「庶民の怨念と文学の強度」月村了衛
「迷宮解体新書(124)月村了衛」村上貴史
座談会で回答した内容とも重なる部分もありますが、海外出張についてはより詳しく説明されていますし、「現実を照射するために構想した作品」という発言も。
「月村了衛さんの『機龍警察 白骨街道』を読んだ」上田早夕里
「『機龍警察 白骨街道』を語る書店員座談会 with 月村了衛」
なぜか「書店員座談会」と銘打たれていますが、実質的に書店員による月村了衛インタビューです。迷宮解体新書と重なる部分もありましたが、山田風太郎の忍法帖は意識していない、狛江事件と沖津の過去は無関係、などズバリ回答してくれていました。
「大河の源流へ――『無印』を今読むべき理由」青柳美帆子
「〈機龍警察〉マラソン」小野由佳
「第11回アガサ・クリスティー賞 受賞の言葉」逢坂冬馬
「第11回アガサ・クリスティー賞選評」北上次郎・鴻巣友希子・法月綸太郎・編集長清水直樹
『同志少女よ、敵を撃て』(冒頭掲載)逢坂冬馬
――1942年、モスクワ近郊の農村で暮らす少女セラフィマは半農半猟の生活をおくっていた。だが、無残にもその平和は破壊された。急襲したドイツ軍により、母親が殺害され、村人たちが惨殺されたのだ。自らも殺されそうになったその時――赤軍の女性兵士イリーナに命を救われる。(p.4 あらすじより)
世界名作劇場みたいな家族やご近所さんの会話が続いているあいだはどうなることかと思いましたが、そんな絵に描いたような平和があるからこそ、それが破られたときの衝撃が大きいのでしょう。
「ハヤカワ文庫JA総解説 ミステリ篇 PART2[1013~1493]」
「Let's sing a song of...」皆川博子
――バートンズ再び! ダニエル先生と弟子たちは無事公開手術をできるのか?(惹句より)
『開かせていただき光栄です』の前日譚。
「これからミステリ好きになる予定のみんなに読破してほしい100選(4)特殊設定ミステリ」斜線堂有紀
「華文ミステリ招待席 第1回」
「紅楼夢曲――仙女の神隠し」張舟《ジャン・ジョウ》/稲村文吾訳(红楼梦曲之仙子神隐,张舟,2014)★★☆☆☆
――風雪は強さを増し、黄河を渡れない人々が破廟《あれでら》に集まってきた。富人が紅楼夢曲を歌い始めた。あちこちから喝采の声があがったが、品格高い貴人が冷笑を漏らした。富人がそれを見咎めると、貴人は林黛玉は賈宝玉との恋に破れて傷心から死んだのではなく、縁戚に殺されたのだと答えた。だが居合わせた僧は、雪の降り積もるなか足跡を残さず林黛玉の消えたことから、仙女である林黛玉は天上へと戻っていったのだと主張する。それに対し貴人は驚くべき推理を伝えた。それを聞いた富人は……。
出版社・行舟文化セレクトによる華文ミステリの連載が始まりました。第一回は『紅楼夢』を材に取った、なるほど中国らしさ全開のミステリです。柴田天馬訳『聊斎志異』のように客桟《やどや》、虎狼之徒《ならずもの》といった漢語にルビを振って雰囲気を出そうと努めているようです。この種の作品は原典に縛られて窮屈になってしまいがちで、せっかくの多重解決も活きていません。
「おやじの細腕新訳まくり(24)」田口俊樹
「巣箱」ウィリアム・マーチ/田口俊樹訳(The Bird House,William March,1954)★★☆☆☆
――窓から見えた鳥の巣箱のことから、客たちは身の安全に関して意見をぶつけ合い、最後にウォルター・ネイションが話を始めた。「ここニューヨークでエマニュエルという男が殺された事件があった。行商人と父と洗濯屋の母に先立たれ、幼いエマニュエルは天涯孤独の身となった……」。客たちは天涯孤独な少年について想像をめぐらした。「恐ろしい世の中にただひとり残された少年は、窓という窓、ドアというドアに大急ぎで鍵をかけてまわるの」。実際にそうだったかもしれない。それが警察を悩ますことになるこだわりの始まりだったのかもしれない。とにかく、大人になり洗濯屋をエマニュエルは、あるときドアに鍵のかかった部屋のなかで三発の銃弾を食らって死んでいた。凶器も犯人も見当たらない。
こういう、文学ではなく文学くさい作品はごめんです。
「BOOK REVIEW」
◆『悪童たち』紫金陳は前号で紹介されていました。『骸骨 ジェローム・K・ジェローム幻想奇譚』は、『ボートの三人男』の著者による幻想作品。
◆『invert 城塚翡翠倒叙集』相沢沙呼は、タイトル通り倒叙ミステリ集。倒叙好きとしては見逃せませんが、『medium 霊媒探偵城塚翡翠』(こちらは倒叙にあらず)に続くシリーズ二作目で、「なるべく前作を先に読んでおいたほうがいい」そうです。
◆復刊ものは『パーカー・パインの事件簿』
◆コミック『国境のエミーリャ』池田邦彦は、『シャーロッキアン!』の著者による新作のようです。
「時代劇だよ!ミステリー(26)「大奥開かずの間」は実在した!」ペリー荻野