東雅夫編〈文豪ノ怪談ジュニア・セレクション〉の汐文社から、日下三蔵編によるSFセレクションが刊行されています。日本SF黎明~黄金期の作品はほぼ読んだことがないし、こういう機会がなければ読む気もなかったので良い機会でした。
「御先祖様万歳」小松左京(1963)★☆☆☆☆
――おばアちゃんの家の納戸から見つかった明治元年の曾祖父の写真には、まだ走ってもいない最新型の列車が写っていた。うしろの山に原因がありそうだと考えたぼくは、洞窟に入った。反対側に出ると、その風景は入口の風景とまったく同じだった。ふと見ると、侍が四、五人、抜き身を下げてこちらをにらんでいる。
失業保険をもらっているからには語り手は大人なのでしょうが、ジュヴナイル・アンソロジーで読んだからというだけでなく、語り手があまりに子どもっぽすぎます。ユーモアが下手くそなので、ドタバタではなく子どもっぽいだけになってしまっています。タイムパラドックスを扱ったオチ以外はドタバタしているだけの内容でした。
「時越半四郎」筒井康隆(1966)★★★☆☆
――片倉半四郎という若侍は、一風変っていた。冴えた知性が、一種の冷たさを感じる機械的なものにまでなっていた。そのため同輩とは折りあいが悪く、先日も喜八郎の不備を大勢の前で指摘したことから、果し状を突きつけられた。猛る喜八郎の刀をかわすと、半四郎の姿は消えていた。自分にはどうやら時間や場所を移動する能力があるらしい。
遺伝記憶という設定により、赤ん坊のまま江戸時代に放り込まれた無知な状態と、同時代の人々とは思想も人生観も合わないという状態が同居することになっています。だから本人も読者も、半四郎がタイムトラベラーだということはわかっても、どうしてこの時代に来ているのかはわからないままです。思い人の弥生が怪我したひばりを看病しているという描写や、強く思っている時間と場所に移動できるという設定が伏線になって、衝撃的な最期と笑っちゃうラストが待ち受けていました。
「人の心はタイムマシン」平井和正(1968?)★☆☆☆☆
――そして彼はその少女にめぐり会ったのだ。しゃれたスナックのとびらを開け、海底から現れた熱帯魚を思わせる少女。「ね、どこへ行くの?」少年は歩調をゆるめなかった。「さよなら……」それ以来、少女は彼の心にすみついたのだった。心の中の少女にはいつでも会うことができた。
「たんぽぽ娘」といい『夏への扉』といい『ハローサマー、グッドバイ』といい、どうしてSFの作家やファンは永遠の少女が好きなのか。現実の少女であるにもかかわらずほとんど実体が感じられないため、どことなくシュペルヴィエル「海に住む少女」のようでもあります。
「タイムマシンはつきるとも」広瀬正(1963)★★★★☆
――五助はタイムマシンを手に入れた。苗字は石川であり、先祖の名に恥じぬよう日夜家業にはげんでいるが、いまだ平凡なコソ泥である。妙な恰好の自動車だなと思ったが、ドアをあけて乗りこんでしまった。足音が聞こえたので夢中でアクセルを踏みこんでしまった。気づくとひと月が経過していた。
よくあるタイムパラドックス作品なのですが、主人公を泥棒ということにして、しかも石川五右衛門の子孫ということでユーモアを生み出しています。この種のものにしてはループしていないというのも特色で、こうした構造により、主人公が泥棒のため勧善懲悪になっているのも面白いですね。
「美亜へ贈る真珠」梶尾真治(1970)★☆☆☆☆
――航時機の前にたたずむ女性に気になるものを感じました。航時機の中の青年を見つめていました。航時機は未来へしか進めません。機内の時間は八万五千分の一で経過しているのです。私はとうとう彼女に話しかけてみました。「彼はお友達なのでしょうか?」「私……アキに捨てられたのです。どうして航時機へ乗ったのでしょう」。機内の青年はほとんど歳を取らないまま、美亜だけは年を取っていきました。機内からは機外は数秒間の駒落しの映画のようにしか見えないはずです。
? よくわかりません。結果的にとはいえ寝取った男の視点で書かれても、ロマンチックでも何でもないような……。時間が遅くなっている機内で流した涙が機外からは止まって見えて真珠のように見える=贈り物の真珠が動かずに機外に置かれているのを見て美亜が死んだことを知って涙を流す――ということを描きたいだけなら、もうちょっと書きようもあるでしょうに。
「時の渦」星新一(1966)★★★☆☆
――ある日時を境に未来のことを予想できなくなってしまい、その日はゼロ日時と呼ばれるようになった。だがその日がきてもいつもとなにも変わらなかった。つぎの朝。目を覚ましたひとは、きのうと同じようだな、と思った。二日目も三日目も朝になったら一日目と同じ状態にもどっていたが、人間の記憶だけは連続していた。
渦巻の中央に向かって進んだ中心でUターンしながらループするという現象の行き着く先は、人口爆発による滅亡しかないように思えたのですが、思いも寄らない結末が待ち受けていました。ただし突拍子もなさ過ぎて切れ味には欠けます。
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