『ふたりの距離の概算』米澤穂信(角川文庫)★★★★☆

ふたりの距離の概算米澤穂信(角川文庫)

 『It walks by past』2010年。

 入部希望者はなぜ千反田に怒り入部を取りやめたのか――マラソン大会の最中に奉太郎が走りながら時系列に沿って回想し、実行委員の里志、追い抜いてゆく伊原、千反田に一つずつ質問をして真相に迫ってゆきます。

 回想と証言だけから推理するという点では、安楽椅子探偵もの(走っているけど)と言えなくもない内容でした。

 さり気ない描写や明らかな違和感がすべて拾われて、慣用的とも言える言い回しの矛盾から、譲れないものが明らかになるにつれ、苦みと感動がじわじわと押し寄せて来ました。

 読者には既にお馴染みになっている千反田や里志の個性ですが、入ったばかりの新入生にはそれがわからず、勘違いによるすれ違いを生んでしまうというのは、シリーズものであることを活かした仕掛けでした。

 『クドリャフカ』『遠まわり』と、日常の謎としてはちょっと強引な二作が続いていたので、久しぶりに日常の謎らしい日常の謎が読めました。千反田という特殊な存在が前提になっているという点では充分に荒唐無稽ではあるのですが。

 大日向さんが明るくて真面目でいい子なだけに、こうした結果になってしまったのはあまりにも哀し過ぎます。やるせない気持ちがいつまでも消えずに胸に引っかかるような、曰く言いがたい読後感を残す作品でした。

 春を迎え高校2年生となった奉太郎たちの〈古典部〉に新入生・大日向友子が仮入部する。千反田えるたちともすぐに馴染んだ大日向だが、ある日、謎の言葉を残し、入部はしないと告げる。部室での千反田との会話が原因のようだが、奉太郎は納得できない。あいつは他人を傷つけるような性格ではない―。奉太郎は、入部締め切り日に開催されたマラソン大会を走りながら、心変わりの真相を推理する! 〈古典部〉シリーズ第5弾!(カバーあらすじ)

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