『陰仕え 石川紋四郎』冬月剣太郎(ハヤカワ時代ミステリ文庫)★★☆☆☆

『陰仕え 石川紋四郎』冬月剣太郎(ハヤカワ時代ミステリ文庫)

 ミステリマガジンの紹介文で「トミーとタペンス」が引き合いに出されていて、掲載されていた冒頭(友人の同心と共に連続辻斬りを追う紋四郎と、独自の捜査で無茶をする妻のさくら)もまさにそんな感じだったので、購入しました。

 ただ、トミーとタペンスふうなのはそこまででした。

 若禿という設定も、陰仕えという公儀の刺客である設定も、さして必要であるとも思えませんでしたし、後半になってからは歌川国芳というにぎやかしキャラが出てきたせいで作品の雰囲気ががらりと変わり、紋四郎もただのやきもち焼きになってしまいました。

 紋四郎はさくらが首を突っ込むのを嫌がっているので仕方ありませんが、もう少し二人で一緒に行動する場面があってもいいのではないでしょうか。なんだかまるで他人同士みたいでした。

 陰仕えという務めゆえ剣の腕は一流なのですが、そういう設定のわりにチャンバラシーンがあっさりしすぎていて、がっかりしました。だったらはじめからチャンバラシーンなんか入れなければいいのに。

 紋四郎の友人の同心・針之介が極度の駄洒落好きで、登場人物も眩暈を起こすほど駄洒落を連発し、あまつさえ地の文でその駄洒落を解説するという拷問のような場面が仕掛けられていて、さすがにここまで駄洒落にこだわるからにはそれなりの理由があるのだろうと思って(願って)いましたが、ちゃんと必然性があったのでほっとしました。ただその必然性というのも、本人を特定するという、駄洒落でなくともいいようなものでしたが……。

 カバー袖によればシリーズ化が決定していて、本文中では事件の黒幕や謎の人物を匂わせたりもしていますが、読むことはないでしょう。

 “陰仕え”として公儀の敵を闇から闇へやむなく斬ってきたという秘事を抱える薄毛の剣士・紋四郎は、好物の海苔弁を食しながら煩悶していた。愛妻さくらにもこのことは明かせぬ、苦悶の日々。そんな折、友の同心から助けを請われる。次々と起こる読売殺し――江戸を騒がす下手人の捕縛を手伝ってくれというのだ。紋四郎は勇んで引き受けるが、なんと好奇心に富みすぎる妻が自分も手伝うと言い出すから気苦労が増えて……(カバーあらすじ)

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