『Anne of Avonlea』L. M. Montgomery,1909年。
『赤毛のアン』の続編、完訳&訳註版です。
教師になったとはいっても、アンがまだ16歳と半分だということに驚きです。現代の感覚ではまだまだ子どもということもあり、アンも前作とまったく変わっていなくて安心します。
大人びてしまったダイアナとは違い今でも空想の翼を広げたり好きな日を自分の誕生日にしたりしているかと思えば、思い込みと真面目さゆえにいきなり牛のことでポカをしたり、地域改善のための集会を立ち上げたり、初授業を前にして悩みすぎたり、有り余る元気印のままでした。
牛のエピソードもそうですが、地域改善の募金を頼んだブレアさんのエプロンや、教室の爆竹や小屋の屋根など、コメディ要素も見逃せません。
いなくなってしまったマシューの代わりに、気むずかし屋のハリソンさんがアンを気にかける年配男性の役で登場しています。すぐにアンの魅力に参ってしまうものの、アンにべったりのマシューとは違って拒むべきことは拒む人なので、そうした人物と渡り合えるくらいにはアンも成長していることがわかります。後押ししてくれるマシューがいないのでマリラに対してもアン自身が作戦を練って説得しようともしていました。
せっかく教師になったのに、学校の出来事よりもマリラが引き取ったデイヴィとドーラの双子との交流に多く筆が割かれているのがもったいない。確かに極悪いたずら小僧のデイヴィはアンも手を焼くほどの愉快なキャラなのですが……。
生徒では悪名高きパイ家の子どもアンソニー・パイが多少出番が多いくらいで、あとは空想癖のある優等生ポール・アーヴィングばかりです。ミス・ラヴェンダーがらみのこともあるので仕方のないことではあるのですが。ポールの話し方があまりに優等生っぽくて気持ち悪いのが残念です。
そのミス・ラヴェンダーとお手伝いのシャーロッタ四世の二人が、まるでアンの空想の世界から抜け出て来たような魅力的な人物でした。四十五歳になっても空想を捨てない“心の同類”でありロマンティックな失恋の過去を持つミス・ラヴェンダーと、姉から数えて四代目のお手伝いでアンに憧れているシャーロッタ四世。少女趣味といえばそれまでなのでしょうけれど、アン世界を象徴するような二人でした。
ミス・ラヴェンダーにかぎらず恋愛要素や夫婦関係も盛り沢山でした。アンとギルバート、ダイアナとフレッド、ハリソンさん、リンド夫妻。アンはまだギルバートへの気持には気づいていません。
註釈は『赤毛のアン』と比べるとあまり本文の内容と密接に関わるものが少なく、ごく普通の註釈止まりなものが多かったのですが、あとがきで『赤毛のアン』『アンの青春』『アンの愛情』の原題から、アンの立場の違いを解説してくれているのが、邦訳では抜け落ちてしまう部分なのでありがたかったです。
アン16歳、プリンス・エドワード島の教師に。ギルバートと村の改善協会を作り、マリラが引きとった双子を育て、夢を抱いて誠実に生きる。ミス・ラヴェンダーの恋、ダイアナの婚約、アンの旅立ち。英文学からの引用を解説。日本初の全文訳・訳註付『赤毛のアン』シリーズ、幸せな生き方をさわやかに描く、青春と希望の第2巻。(カバーあらすじ)
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