『プラヴィエクとそのほかの時代』オルガ・トカルチュク/小椋彩訳(松籟社 東欧の想像力16)★★★★☆

『プラヴィエクとそのほかの時代』オルガ・トカルチュク/小椋彩訳(松籟社 東欧の想像力16)

 『Prawiek i inne ezasy』Olga Tokarczuk,1996年。

 『逃亡派』の邦訳で知られるポーランドノーベル文学賞作家の出世作

 プラヴィエクというポーランドの架空の町の出来事が、短いエピソード=一章の連なりで綴られています。なかでもミハウとゲノヴェファ夫婦の一族の生涯が中心となっています。

 冒頭でいきなりミハウは徴兵に取られてしまい、残されたゲノヴェファがミハウ出兵後に妊娠に気づくところから物語は始まります。ユダヤ人の若者との不倫、帰還したミハウ、娘の成長に対する父親の複雑な思い、障害もちの長男の誕生、娘の結婚などのありふれた出来事に混じって、水霊やキノコの菌糸の視点で綴られる章まであって、マジック・リアリズムのような空気を漂わせています。

 ミハウ家以外のエピソードに目を向けても、“魔女”クウォスカ、悪人のような、幻想的とも言える内容がつねに当たり前のように存在していました。

 当初から戦争の影は差していたとはいえ、飽くまでプラヴィエクのそとで起こっていた出来事が、前線という形で押し寄せてところで、空気は一変したかに思えました。軍人は一家に余計な知識をもたらしに来たようにも見えました。けれどそれからも、一家や村は何も変わらず続いてゆきます。ゲノヴェファが死に、ミハウが死に、娘のミシャや息子のイズィドルの代になっても、『百年の孤独』のような崩壊がもたらされることはありません。まるで本書そのままの世界が、現在も続いているような――。

 獣になった悪人や、世界と村を分かつ境界、庭の植物との交わりなど、印象に残る場面がいくつもありました。

 ポーランドの南西部、国境地帯にあるとされる架空の村プラヴィエク。そこに暮らす人々の、ささやかでありつつかけがえのない日常が、ポーランドの20世紀を映しだつとともに、全世界の摂理を、宇宙的神秘をもかいま見させる――「プラヴィエクは宇宙の中心にある。」(帯紹介文)

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