『消えた犬と野原の魔法』フィリパ・ピアス作/ヘレン・クレイグ絵/さくまゆみこ訳(徳間書店)★★★☆☆

『消えた犬と野原の魔法』フィリパ・ピアス作/ヘレン・クレイグ絵/さくまゆみこ訳(徳間書店

 『A Finder's Magic』Philippa Pearce,2008年。

 フィリパ・ピアスの遺作です。挿絵は娘婿の母親が担当し、主人公の名前ティルは孫のナットとウィルから採られています。そして物語の結びでは、この物語が二人の著者を思わせる登場人物によって書かれたティルの物語(つまりフィリパとヘレンによるナットとウィルの物語)だったということが明らかになるように、家族の物語でした。

 飼い犬のベスがいなくなったティルは、突然現れた怪しげな老人の助けを借りて、動物の声を聞きながらベスの行方を捜してゆきます。魔女のようだと怖がっていたおばあさんにも、ベスを見かけなかったかと勇気を出してたずねます。

 犬といえば『まぼろしの小さい犬』、謎解きは『ハヤ号セイ川をいく』、そして老婆……のように著者の集大成といった趣がありました。

 ただしとてもあっさりとしています。老人の正体もなぜそういうことが起こったのかも、ただそういうものだと受け入れるしかありません。せっかくのベスの名前の由来も、どれだけベスのことを大事に思っているかというエピソードがないと感動も半減してしまいます。

 恐らく見つけ屋というのは、ものをなくしたと思ったらひょんなところから出てきた――という出来事を具現化した存在なのでしょう。明らかに人外のものでありながら決して万能ではなく、モノを介してしか動物と会話することが出来ないというのがいいですね。もちろんそれは動物がしゃべるというあまりに嘘くさいファンタジーを嫌ったというだけのことなのかもしれません。けれどもしかしたら、誰かがいなくなってもモノには何かが残るのだ、ということなのでは――と考えるのは、遺作だということから来る思い込みでしょうか。

 犬のベスが、ある日、どこかへ行ってしまいました。ティルはかなしい気もちで眠りにつき、次の朝早く、家の外に出てみました。すると、庭の木戸のところにきみょうなおじいさんがあらわれて、言いました。

 「わしは見つけるのが得意でな。おまえさんががんばってさがすなら、手伝ってやるぞ」いつもベスと散歩に行っていた、二人のおばあさんが住む野原まで、おじいさんといっしょに行ってみると、次々にふしぎなことがおこり……?

 物語の名手フィリパ・ピアスが遺した最後の作品に、人気絵本画家ヘレン・クレイグが絵をつけました。ピアスとクレイグが、「共通の孫」たちのために作った、美しいお話です。(カバー袖あらすじ)

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