『恐怖小説キリカ』澤村伊智(講談社文庫)
おばけの出てくるホラーを見下す編集者の依頼によって書かれた、一番怖いのは人間だという小説――という体裁の小説です。
日本ホラー小説大賞を受賞した澤村伊智の周りで起こる恐ろしい出来事が描かれます。
第一部は、「不幸な駄目人間でなければいい小説は書けない」という考えを盲信する小説批評会のメンバーに、ストーカーとして粘着されるストーカー小説です。元ネタとなっている『ミザリー』が可愛く見えるくらい、とにかく陰湿でとにかく気持ち悪い内容でした。
第二部では一転、澤村伊智の第二人格の一人称により、サイコなシリアルキラーによるスプラッタが繰り広げられます。
第三部では、第二の人格からの告発によって澤村伊智の正体に気づいた小説会のメンバーの、葛藤と恐怖が描かれていました。
あとがきも作中の澤村伊智によるという体裁で、本書に否定的な感想を書いてくれたら復讐できるから助かる云々という凝った作りでした。「うしろを見るな」系の読者の現実を巻き込むタイプの恐怖としてはかなり秀逸だと思います。
こうした作家自身についての小説で、作中作の入れ子構造というは、趣向倒れになるものも多いと思うのですが、逃げでも趣向止まりでもなくきっちり起承転結をつけて描ききっているところも、類似作品にはない長所だと思います。
ただし残酷なのが嫌いなのとメタが嫌いなので、好き嫌いで言えば嫌いな作品でした。
宮部みゆき、綾辻行人、貴志祐介、錚々たる作家が選考委員を務める新人文学賞を獲得した「僕」。隣には最愛の妻・キリカ。作家デビューは順風満帆かと思われたが、友人が作品を曲解して執拗な嫌がらせをはじめる。しかしその結果、僕は妻のとんでもない秘密を隠し切れなくなり……これぞ最恐のサイコ・ホラー!(カバーあらすじ)
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