『小鳥を愛した容疑者』大倉崇裕(講談社文庫)★★★☆☆

『小鳥を愛した容疑者』大倉崇裕講談社文庫)

 警視庁いきもの係シリーズ第一作。
 

「小鳥を愛した容疑者」(2009)★★★★☆
 ――重傷を負った捜査一課の須藤警部補は、退院後に内勤を薦められたが、現場復帰を望んだため、リハビリという名目で閑職をあてがわれた。容疑者が逮捕されたあとのペットの世話をする警視庁総務部総務課動植物管理係だ。苦情に対するアピールのための部署なので、実働も実績もない。そんな係に初めての仕事がもたらされた。殺人容疑者・八木の飼っている小鳥の管理だ。須藤は薄《うすき》巡査とともに八木の部屋に向かう。状況証拠だけで物証はない。だが薄は一目で八木が犯人だと断言した。さらに薄は、鳥を飼っているにしては部屋がきれいすぎることにも不審を抱いた。

 動物好きでも何でもない身からすると、八木が犯人かどうかにしか注意が向いていませんでしたが、ペットに関する知識がある薄の目には防音室の目的が見えていました。手乗りとそうでない鳥の違いから、部屋からなくなったものを推理するなど、ほかにも薄の動物好きという設定が存分に活かされていました。ただしそれだけではなく、部屋にあった新聞から八木犯人説を推理するなど、もともと観察力と推理力が優れているようです。
 

「ヘビを愛した容疑者」(2009)★★★☆☆
 ――リストラされて悩んでいた山脇伸一が自殺した。だが死亡推定日時より後に部屋に帰ってきた姿を目撃されていた。飼っていたヘビが気になって化けて出たわけでもあるまいに。ヘビを大切にしていた山脇なら、引き取り手やヘビ友達がいてもおかしくはない。アルバムの空白、脱皮した抜け殻、第三者がいた可能性は高い。だがそれなら目的は何だ?

 引き取るならなぜ堂々と引き取らないのか、事故だとするなら自殺に偽装する意味はあるのか――、それが(小鳥などではなく)ボアだという特殊性と組み合わされることで、ある犯罪が浮かび上がってくるのには舌を巻きました。それにしても、そこまで好きなのによく我慢したなあと思います。
 

「カメを愛した容疑者」(2009)★★★☆☆
 ――弁護士の杉浦次郎が行方を絶った。弁護士事務所の顧問は兄の弁護士一男に連絡したが、真剣に取り合わない。顧問は知り合いの警視庁管理官に相談し、総務課に仕事が回ってきた。表向きはペットのリクガメの様子を見るという名目で、次郎が誘拐され一男が犯人から口止めされている可能性を考えてのことだ。一男もワニガメを飼っていたが、三年前に死んでからは新しく飼うのをやめてしまった。

 これまでの三話とも、予想もしないところから予想もしない犯罪が明るみに出て来る意外性が見事です。カメの甲羅の保存と次男の失踪はふつう結びつきません。須藤と薄が担当したのが殺人事件ではなく失踪事件だからこそ、意外性が上がっている点も見逃せません。
 

「フクロウを愛した容疑者」(2010)★★☆☆☆
 ――フクロウの鳴き声をめぐるトラブルで、隣人の渋谷孝を殺害した容疑で藤田道典が逮捕された。だが現場に落ちていた羽根はモリフクロウのものではなくベンガルワシミミズクのものだった。地球儀を糞の落ちる場所に動かしていた形跡もある。そもそもフクロウはそんなにしょっちゅう鳴いたりしない。

 これまでの三話と比べると、明らかになる真相がやや意外性に乏しいのは否めません。騒音トラブルを抱えていたのなら必ずやっているはずの事柄から、別の出来事が暴かれるのは、なるほど意外性がありましたが、犯人像が古典的すぎて作品全体がこぢんまりとした印象になってしまっていました。

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