『琥珀捕り』キアラン・カーソン/栩木伸明訳(東京創元社 海外文学セレクション/創元ライブラリ)★★★★☆

琥珀捕り』キアラン・カーソン/栩木伸明訳(東京創元社 海外文学セレクション/創元ライブラリ)

 『Fishing For Amber』Ciaran Carson,1999年。

 父親のように話せたらどんなにいいだろう……という語り手の述懐から話は始まります。そんな父親が話したのは例えばこんな話。船長、話をしてくださいよ。そこで船長は語り始めた。船長と船乗りが火を囲んでいる。一人の船乗りが言った。船長、話をしてくださいよ。そこで船長は語り始めた。船長と船乗りが火を囲んでいる。一人の船乗りが言った。船長、話をしてくださいよ。そこで船長は語り始めた……。

 微笑ましい親と子の風景から、連想ゲームのように物語は綴られてゆきます。

 父親が話してくれた、指で堤防の決壊を止めたオランダの少年の話から、オランダへと飛び、オランダの店先にある絵や小像のヘルメスに話が移ると、ヘルメスの信徒たちが落とす白い小石から、コインへと意識は飛び、聖泉への巡礼、聖者の琥珀のロザリオ、琥珀原料のワニス、琥珀の名の由来となったエジプト王妃ベレニケ、ベレニケゆかりのある土地に漂う香り、薔薇の香り、薔薇につけられた豊富な品種名、チューリップ狂時代につけられた仰々しい名前……。

 どことなく『トリストラム・シャンディ』を連想しましたが、あちらよりもさらに取り留めがありません。

 本書で紹介されているこうした民話や伝承や小咄の多くは、いかにも本当にありそうな、けれど作者の創造になるもの、だと思っていました。けれどそれはどうやら勘違いらしく、巻末には出典一覧も載っていました。

 ちなみに、AからZまでの頭文字の単語で構成された目次の趣向は面白いものの、章題以外にもさまざまなものが取り上げられているので、AからZまで揃えるのは意外と簡単そうです。

 ※堤防決壊を防いだ少年の話は『クオーレ』の一挿話だったと思っていたのですが、どうやら記憶違いで、『銀のスケート』という童話のエピソードのようでした。

 ローマの詩人オウィディウスが描いたギリシアローマ神話世界の奇譚『変身物語』、ケルト装飾写本の永久機関めいた文様の迷宮、中世キリスト教聖人伝、アイルランドの民話、フェルメールの絵の読解とその贋作者の運命、顕微鏡や望遠鏡などの光学器械と17世紀オランダの黄金時代をめぐるさまざまの蘊蓄、あるいは普遍言語や遠隔伝達、潜水艦や不眠症をめぐる歴代の奇人たちの夢想と現実──。数々のエピソードを語り直し、少しずらしてはぎあわせていく、ストーリーのサンプリング。伝統的なほら話の手法が生きる、あまりにもモダンな物語!(カバー袖あらすじ)

  


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